へたれSS_第15回 へっぽこVSシリーズ第15弾「サイゾーVSイシュタル」(前編)
--真相--

サイゾーとアルテナを乗せた飛竜はイザークから西・・・イード砂漠に向かっていた。

「そう言えばサイゾー殿に一つ聞きたかったのだが・・・。」
「なんでしょう?」
「例の『決闘』でシャナン殿に勝った時、シャナン殿と何か話していただろう。」
「・・・あれですか。」
「アルテナ殿、私とシャナン殿の剣が交錯した時、シャナン殿がどう動いたか見えましたか?」
「いや、さすがにそこまでは解らないな。なにしろ一瞬だったからね。」
「あの一瞬・・・シャナン殿は剣を下ろしたんですよ。」
「!? どういうことだ?」
「つまり、シャナン殿は私の一撃をわざと食らったんです。」
「その後、あたかも私のほうが一瞬だけ速かったかのように私の肩に剣を近づけた。」
「そうか・・・それであの時、サイゾー殿はあまり嬉しそうな顔ではなかったのか。」
「私には解らない。少し間違えば命を落とす可能性すらあったのに・・・。」

「・・・そうかな? 私にはシャナン殿の気持ちが解らないでもない。」
「!? なぜです?」
「サイゾー殿とシャナン殿の実力は拮抗していた。しかも剣の腕は折り紙付だ。」
「あのまま続ければ、おそらくどちらかが死ぬ・・・とまではいかなくても、剣を握れない体になっていただろう。」
「だから、シャナン殿は考えた。どちらかが剣を握れなくなるのであれば、自分の方がいいと。」
「どういうことですか?」
「一国の王や王族というのは思いのほか窮屈なものでね。自分が望む望まないに関わらず、行動が制限される。」
「シャナン殿はサイゾー殿と剣の稽古をしていたということだが、それすら普通は難しいだろうね。」
「!?」
「おそらく、サイゾー殿はシャナン殿の数少ないわがままだったのだろう。」
「サイゾー殿であれば自分の腕と引き換えにしてもいい、シャナン殿はそう思ったんじゃないのかな。」
「シャナン殿・・・。」
「サイゾー殿、シャナン殿の気持ちを無駄にしないことだ。」


--イードの街--

イード砂漠は、かつて聖なる12人の戦士が降り立った場所である。
先の『聖戦』ではイード神殿に居を構える暗黒教団とセリス率いる同盟軍が激戦を繰り広げた。
当時の暗黒教団は壊滅したが、その後再びロプト神を崇拝する信者が集まり、現在はイード砂漠のあちこちに集落がある。

サイゾーとアルテナは、イード砂漠の入口にあたる街で飛竜を休ませていた。
その街の酒場でにて・・・。

「おい、本当かよ?」
「ああ、なんでもイード砂漠で季節はずれの雷が多発してるって話だ。」
「しかも、決まって王国の使者がイード砂漠に入った時に発生するんだとさ。」
「イードの暗黒教団どもが何か企んでんじゃねえのか?」
「だろうな。何だってこの後におよんで王国は使者しか送らねえんだか。」
「そうそう。あんな連中とっとと追っ払っちまえばいいのによ。」
「けっ、それじゃ甘いぜ。昔みたいに火あぶりにしちまえばいいのさ!」

ここまで静観していたサイゾーだったが、さすがに今の一言を無視するわけにはいかなかった。
が・・・アルテナがそれを制した。

「!? アルテナ殿?」
だが、アルテナは黙って首を振った。

そして、先ほど話していた2人がいなくなった後。

「何故止めたんです?」
「ああいう連中には実力行使しても無駄だよ。本人が気付かない限り、ね。」
「しかし・・・。」
「サイゾー殿の言いたいことは解るさ。彼らが言っていることはかつて暗黒教団がしていたことと同じということだろう。」
「そうです。」
「事態はそう簡単ではないよ。まだ暗黒教団に対する怒りや苦しみは根強いままだ。」
「サイゾー殿、覚えておくことだ。全ての人々が暗黒教団との共存を望んでいるわけではないとういうことを。」
「!!」

(・・・半年前にシャナン殿とあの光景を見た時にはこれほど深く考えもしなかった。)
(だが、確かにアルテナ殿の言うことも解る。家族や友人を殺されてハイ仲直り、というわけにもいかないからな・・・。)
(しかし、それでは同じことの繰り返しでしかないのだ・・・。)

「なに、それほど深く心配するな。その状況を打開するために我々が動いている。」
「今すぐには無理だろうが、いつか実現する時が来る。そう信じることが大切なんだ。」
「・・・そうですね。そう願いたいものです。」

「ところで、これからどう動きます?」
「そうだな・・・。」
「先ほどの『季節外れの雷』は『雷神』の仕業なのでしょう?」
「ああ。間違い無いだろう。これでは飛竜で砂漠に向かうのは無謀だな。」
「やはり、歩いて砂漠に入りますか?」
「ふむ。そういうことになるな。」

というわけで、飛竜をアルテナの知り合いがいる宿の預け、徒歩でイード砂漠に向かうことに・・・。


--イード砂漠--

サイゾーとアルテナがイード砂漠に入ってから3日が過ぎようとしていた。

この3日で2人が訪れた集落は10個以上に上った。暗黒教団以外の人々との共存を説くためだ。
しかし、全ての集落で歓迎されたわけではない。中には問答無用で攻撃を仕掛けてきた集落まであった。
もちろんそんなことでやられるような2人ではなかったが。

しかし、2人が敵意がないことを示した後は、彼らの対応は決して悪くはなかった。
突然攻撃したことを詫び、外の世界の情勢を熱心に聞いてきた。
彼らもまた外の人々との共存を望んでいる、そんな思いが伝わる光景だった。

「・・・アルテナ殿。」
「どうした?」
「目的地にあたる『イード神殿』はまだ遠いのか?」
「いや、今日中には着くだろう。もっとも・・・」
「『雷神』の妨害がなければ、か。」
「まぁ、イシュタル殿本人にも聞きたいことは多いのだがな。」

「アルテナ殿、悪いが『雷神』について詳しく教えてくれぬか?」
「サイゾーどのはどの程度知っているのだ?」
「そうだな・・・先の『聖戦』でユリウスの側に仕え、『雷神』あるいは『死の女神』として恐れられる魔道士だったと聞く。」
「だが、暗黒教団に組していたにもかかわらず子供狩りに反対したり、捕虜を逃がしたりと教団らしくない人物だったとも聞いているな。」
「その通りだ。」
「だが、何故彼女は教団に組していたんだ? アルテナ殿はなにか知っているか?」
「簡単なことだ。彼女はユリウスが好きだったんだよ。」
「!?」
「確かにユリウスは我々にとって・・・極論を言えば世界にとっての敵だった。」
「だが、イシュタル殿にとってはどうでもいいことだったんだろうね。最後まで我々の前に立ち塞がったよ。」
「ユリウスを殺させない・・・ただそれだけのために。」
「なるほど・・・彼女は教団に組したというよりは、ユリウス本人に組していたということか。」
「そういうことだ。」
「もう一つ聞いていいか? ・・・イシュタルにとどめを指したのは誰だ?」
「一応はティニー殿ということで聞いているが、本当のところは私もよく知らない。その場にいたわけじゃないのでね。」
「ただ・・・。」
「ただ?」
「ユリア殿がユリウスにとどめを指した時、それに呼応するようにイシュタル殿も倒れたという話を聞いている。」
「しかし、その後ティニー殿がとどめを指したとは限らないのではないか?」
「そうだな・・・ティニー殿本人がいればもっと詳しい話が聞けるのだが・・・。」

ここで話が中断することになった。
2人が前方に人の気配を感じたからだ。
そして、その気配は強大な魔力を同時に放つ存在だった。

「!!」
「来たか・・・思ったより早かったな。」

ゆっくりと近づいてくる人影・・・それは、アルテナにとって忘れられない人物だった。
その人影とは、もちろん『雷神』イシュタルである。

「やはり・・・見間違いではなかったか。」
「5日ぶりですか。トラキア公女が自ら訪問とは・・・トラキア王が消えた噂は本当のようですね。」
「安心しろ。王とその姉が消えた程度で今のトラキアが揺らぐことはない。」
「何の用です? 返答によっては、この場でお帰りいただきます。」
「ずばり聞かせてもらおう。イード神殿にサラ姫がいるのではないか?」

(!!)

この時、イシュタルの表情が一瞬変化したことをサイゾーは見逃さなかった。
どうやらアルテナも気がついているようだ。

「残念ながら見当違いですね。彼女はここにはいません。」
「ほう。やはりここにいたのか。」
「聞こえませんでしたか? ここにはいないと言っているのですよ。」
「ふっ・・・ならば何故サラ姫を『彼女』と呼ぶ? あなたとサラ姫は面識がないはずだ。」
「サラ姫はマンフロイ司祭の孫娘。教団に組していた私が会ったことがないと?」

「・・・まぁ、そういうことにしておこうか。では、もう一つ聞かせてもらおう。」
「今度は何ですか?」
「リーフがイード砂漠に入ったような痕跡はないか?」
「最近は調査をしていないので解りかねますね。」
「そうか・・・ならばいいだろう。」
「・・・質問はそれだけですか?」
「ああ。」
「ならばもうここに用はないはず。早々にお帰りいただけますか?」
「今日のところはそうしよう。また、近いうちに会うことになるだろうがな。」
「そうならないよう願いましょう。」

そのまま踵を返そうとした2人だが、意外なことにイシュタルがそれを引き止めた。

「ところで・・・そちらの方は?」
「私のことか?」
「ええ。あなたはこの大陸の人ではありませんね。」
「ああ。私の名はサイゾー。バレンシア大陸の者だ。」
「・・・なるほど。『もう一つの大陸が結末をもたらす』とはこういうことですか。」
「!? どういうことだ?」
「あなたに言う必要はありません。」

(「もう一つの大陸が結末をもたらす」だと? 何のことだろう・・・?)

「・・・イシュタル殿、一つ言わせてもらっていいか?」
「なんでしょう?」
「私はあなたのことを詳しく知っているわけではないが、周囲の話を聞く限りでは聡明な人物に思えた。」
「・・・。」
「あなたは本当にこのままで良いと思っているのか? 本当は皆が外の世界と共存する日を望んでいるのではないのか?」
「・・・。」
「確かにそう簡単なことではない。だが、いまの状況が続いても決してそんな日が来ることは無いのだぞ!」
「戯言を・・・もはや言うことはありません! 今すぐここから立ち去りなさい!」

そう言うが早いか、イシュタルは呪文の詠唱を始めた。
完全に戦闘態勢に入っている。

「仕方ない・・・一度出直そう。」
「それが正解ですね。」

そして、2人はイード神殿に背を向けて歩き出した。


--イシュタルの歩み--

イシュタルとの1度目の対峙の後・・・。
2人は、イード神殿に程近い集落で宿を取らせてもらっていた。

「さて、少し状況を整理してみた方がいいだろう。」
「とりあえず、サラ姫がイード神殿にいるのは確実だな。」
「ああ。イシュタル殿の態度から見ても間違い無い。」
「リーフ王はどうだろう?」
「・・・難しいところだな。イード神殿にいる可能性も低くないだろうが、確証は持てない。」
「どちらにせよ、イード神殿に行くのが早いな。」
「しかし、イシュタル殿があれでは・・・。」

その時、不意に2人のいる天幕に人の気配がした。

「誰だ!?」
「この集落の長です。すこし話をさせていただけませんか?」
「話とは?」
「・・・イシュタル様についてです。」

(!?)

「アルテナ殿・・・。」
「・・・いいでしょう。お入りください。」

集落の長の話とは、イシュタルがイード砂漠に現れてからこれまでの経緯だった。
アルテナとサイゾーにとっては願ってもないほど貴重な話だったといえる。

「イシュタル様がイードに現れたのは・・・そう、『聖戦』の終結から半年ほど経った頃です。」
「今からちょうど1年ほど前だな。」
「よほど過酷な生活をしていたのでしょう。イード砂漠で発見された時には生きているのが不思議なほどでした。」
「今でこそ体力も魔力も回復していますが、今の状態になるまでには半年近い年月を要したのです。」
「・・・。」
「そして、イシュタル様が完全に回復した頃に我々は一つのお願いをしました。」
「願い?」
「ええ。イード砂漠に多くの集落があることはご存知ですね。」
「それらの集落のまとめ役・・・つまり、事実上ロプト教団のトップになってくれと頼んだのです。」
「!!」
「先の『聖戦』で教団はほとんど全ての教祖を失ってしまいました。いまの教団には指導者たる人物がいなかったのです。」
「最初、イシュタル様は頑として首を縦に振ろうとはしませんでした。しかし・・・」
「しかし?」
「一つの事件をきっかけとして、イシュタル様はその願いを聞き届けたのです。」
「その事件とは?」
「イードの街はご存知ですね?」
「ああ、もちろん。」
「その街に近い集落が、イードの街の自警団に襲撃されるということがあったのです。」
「なっ!! ばかな・・・そんなことが・・・。」
「残念ながら、イシュタル様や我々が駆けつけた時にはすでに壊滅状態でした・・・。」

「ふむ・・・イシュタル殿は、イードの街から教団を守るためにこの地に留まっているという事か。」
「イードの街でそんなことがあったとは・・・すまない・・・これは我々の責任でもあるのだな。」
「いいえ。襲撃はイードの街の独断。国が詫びることではないでしょう。」

「それで・・・長は我々に何をして欲しいのだ?」
「一言で言えば、イシュタル様を助けていただきたいのです。」
「助ける、とは?」
「イシュタル様は聡明な方です。今の状態が良いとは決して思っていないでしょう。」
「そうであろうな。」
「ですが、教団の指導者という立場から、今の状態を維持せざるを得ないと感じています。」
「・・・なるほど。イードの集落にも外との共存を望まない者たちがいるということだな。」
「その通りです。そして、イシュタル様はその者たちが強硬手段に出ないための枷でもあるのです。」
「それで、具体的にはどうして欲しいのだ?」
「イシュタル様が教団のトップである限り今の状況は変わりません。」
「教団のトップを辞めていだだくこと、それが我々の望むことです。」
「だが、それは長たちが自ら言うべきことではないのか?」
「もちろん我々も提言しました。しかし、我々では駄目だったのです・・・。」
「そうか・・・。」
「あなた方は湖に投げられた石のようなもの。石は湖に波紋を作り、それは新たな波紋を呼ぶでしょう。」
「あなた方の訪問以来、イード砂漠で何かが変わりつつあるように感じます。」
「今の状況を打開するためには、あなた方の力が必要なのです!」
「わかった。出来る限りのことはやろう。」
「・・・ありがとうございます。では、私はこれで。」
「うむ。貴重な話をありがとう。」

そして、この集落の長は天幕を後にした。

「・・・長にはああ言ったが、イシュタル殿を説得するのは至難だな。」
「だが、やるしかあるまい。この問題を解決できなければいつまで経っても状況は変わらないのだから。」
「アルテナ殿・・・。」
「サイゾー殿、今日はもう遅い。休んで明日に備えよう。」
「・・・わかった。」

そして、2人は眠りについた。
しかし、その夜のこと・・・。


--真夜中の訪問者--

夜が更け、皆が寝静まった頃・・・。
サイゾーは不意に目を覚ました。
寝付けなかったというわけではない。誰かに呼ばれるように目が覚めたのだ。

サイゾーは天幕を出て集落の外れに歩き出した。
そう、まるで誰かに導かれるかのように・・・。

「・・・あなたが・・・『もう一つの大陸』からの・・・訪問者ですね。」
「!? 誰だ?」

それは銀色の長髪を持つ少女だった。
不思議なことにその少女には影が存在していなかったのだが、サイゾーは気付かなかったようだ。

「お願いです。・・・どうか・・・イシュタル様を・・・救ってください。」
「あの方は・・・自分の信念と・・・現状の間で・・・身動きが取れないのです。」
「もし・・・あなたが・・・本当に『もう一つの大陸』であれば・・・彼女を・・・救うことが・・・出来る・・はず・・・。」

少女の声は途切れ途切れだったか、サイゾーはその声に深い悲しみを感じた。
この少女を泣かせたくない・・・そんな思いになる声だった。

「・・・わかった。イシュタル殿は私が必ず救ってみせる!」

だが、少女はサイゾーの声に応えることなく消えてしまった。
消える直前に少女が微笑んだように見えたのはサイゾーの気のせいであったのか・・・。


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アルテナと共にリーフ王(と言うよりはサラ姫か?)の探索に向かったサイゾー。
しかし、イード砂漠で対峙した『雷神』イシュタルが2人の前に立ちはだかる。

イシュタルが2人の説得を頑なに拒む理由とは?
失踪したリーフ王とサラ姫の行方は?
そして、真夜中にサイゾーの元を訪れた少女の正体は?(ってこれはバレバレやね)

2人は本当にイシュタルを説得することが出来るのか?
様々な思惑が複雑に絡み、一つの結末へと向かっていく・・・。

次回、5人の心中やいかに?
『サイゾーVSイシュタル』(中編)に「可憐のお願いは聞けないな」。(ぉ <--可憐ファンの方スイマセン(^^;



<製作後記>この色の文は作者ツッコミです。 最近ギャグが全然ないですねぇ・・・。 話がシリアスに走ってて入れる余裕がない・・・わけじゃなくて、単にネタが思い浮かばないんです。(爆) 確かに、話の中にギャグを入れにくいってのもありますが。(^^; この辺は次のアカネイア大陸編でフォローしたいところ。 ところで、サイゾーの口調が途中からいきなりタメ口になってます。 なんででしょう? ハテ?(ぉ まぁ、3日の間にアルテナと打ち解けたんでしょう。(ってそれでいいのか?) 今年中にはサイゾーSS終わらせたいよね・・・。(ぉ

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