へたれSS_第17回(表) へっぽこVSシリーズ第17弾「サイゾーVSイシュタル」(後編つづき)
--暗闇の中で--

神殿に入ったサイゾーが最初に感じたもの、それは魔力の気配だった。
それも極めて強力なものだ。

「どうやら当たりだな。既にイシュタル殿が来ているようだ。」
「ええ。まず間違いありませんね。」

次に血の匂いを感じ取った。
よく見れば、暗闇の中ところどころに息絶えた人影が見える。
おそらくは神殿に住んでいた者たちだろう。
さらによく見てみると、死因は剣によるものとわかった。

「これは・・・野盗に襲撃されたのだろうか?」
「おそらく・・・酷いことです。」

大方の状況を把握したところで、サイゾーは走り始めた。
目的の場所は決まっている。魔力の気配がもっとも大きく感じられる場所だ。

しかし、その場所に近づくにつれて、魔力の気配が一つだけではないことがわかった。

(!? ・・・イシュタル殿ど誰かが・・・戦っている?)

サイゾーは走る速度を上げた。
イシュタルと戦っている、それはつまりイシュタルと渡り合える魔力の持ち主ということになる。
サイゾーにはそんな人物に一人しか心当たりが無かった。
そして、サイゾーの想像通りだとすれば、最悪の事態を引き起こす可能性があったのだ。

(くっ! 間に合ってくれよ。)


--魔道士2人--

さて、話は少し前後する。

イシュタルが様々な場所を探し、最後にイード神殿に着いた時には夜もすっかり更けた頃。
すでにイシュタルはサラがこの神殿にいることを確信していた。

だが、神殿に入ったイシュタルが最初に感じたものは、生臭い血の匂いだった。

(なっ!? これはどういうことだ?)

神殿の中はすでに絶命したもの達で溢れていた。
通路に横たわっている者、部屋の中で倒れている者、階段の壁にもたれ掛かったまま息絶えている者。
それは、明らかに皆殺しという行為だった。

そんな中、イシュタルはまだ息のある者を発見した。
傷は深いが致命傷ではない。これなら治療すれば助かるだろう。
イシュタルは素早く治癒魔法を施し、手当てをしてやった。

「うう・・・。」
「気が付いたか。」
「!! イ、イシュタル様・・・。」
「いったい神殿で何があったのだ?」
「野盗が・・・襲撃してきたのです。我々も抵抗しましたが・・・。」
「そうか・・・。神殿から魔道士を遠ざけたのが逆に仇になってしまったか・・・。」
「イシュタル様、野盗はまだ神殿内にいるはずです。それに・・・」
「野盗の中に、暗示を得意とする魔道士がいました。どうかお気をつけ下さい。」
「ああ。安心しろ。私が来たからにはそれ相応の報いを受けてもらうさ。」
「お前は、事が終わるまで安全な場所に隠れているといい。」
「わかりました。どうか・・・お願いします。」

そしてイシュタルは再び歩き出した。
目指す場所はこの神殿の中枢・・・大聖堂だ。
サラの部屋は大聖堂から続く隠し通路の奥にある。
野盗も気になるが、まずはサラの安全が最優先だと考えたのだ。

(チッ・・・何か嫌な予感がする。)
そして、残念ながらその予感は当たってしまった。

大聖堂に着いたアルテナを待ち構えるかのように、一人の少女が立っていた。
いや、実際イシュタルを待っていたのかもしれない。

「何のつもりだ? サラ。」
「我ハ永遠ノぷりんせす・・・。我ニ逆ラウハスベテ悪・・・。」
 ↑どうでも良いけど、こんなネタ解る人いるんかね?(爆)
「・・・チッ、どうやら暗示を掛けられたな。」

つまり、サラは野盗の魔道士に暗示を掛けられていたのだ。
おそらくその内容は「大聖堂に入ってくる者を皆殺しにしろ」といったところだろう。

(さて、こう言う場合は暗示を掛けた本人を倒すのが定石だが・・・。)
(神殿内では結界のせいで『転移』も『透視』も使えないな・・・。)

「まぁ、ここが大聖堂だったのは、不幸中の幸いというところかな。」
「何ヲゴチャゴチャト・・・。」

そして、大聖堂はあっという間に戦場となった。

2人の魔道士の間には激しい閃光と轟音が響く。
イシュタルが大聖堂を動き回りながら『ライトニング』を繰り出すのとは対象に、サラは最初にいた場所から全く動かない。
2人ともその理由は知っていた。
サラがいる場所は大聖堂の中心、つまり魔力のもっとも高まる場所なのだ。
さらに、サラが扱っている魔法が『リザイア』だったということもあるだろう。

(くそっ! 持久戦は明らかに不利だ。)
(やはり短期で決着をつけるしかないのか。)

イシュタルは動くスピードを上げ、魔法を繰り出す間隔も短くしていく。
すでに並の人間では視界に捕えることが出来ない領域だ。
だが、それにもかかわらずサラはイシュタルに対して的確に魔法を繰り出していく。
それはすでに視覚でイシュタルを捕えているのではなく、『予知』に近いものだった。

そんな状態はいつまで続くのかと思われたが、不意にイシュタルが動きを止める。
いつの間に取ったのか、その左手には4本、何か釘のようなモノがあった。
サラもそれに気づいたが、こちらは首をかしげるだけだ。
おそらくサラはこれが何なのかは知らないのだろう。

(・・・残るはあと1本か。これが問題だな・・・。)
(あと1本はサラのいる場所の真下・・・サラが隙を見せてくれない限りは厳しい。)
(さて・・・私一人でできるかな?)

先に動いたのはイシュタルだった。
サラの4方から一斉に『ライトニング』を発生させ、同時にぶつける。
並の魔道士には絶対に出来ない芸当だ。この辺りは流石に『雷神』といったところだろう。
もちろんサラを傷つける為のものではなく、視界を封じて隙を作る為のものだ。

光の爆発に乗じてイシュタルはサラに・・・正確にはサラの真下にある『釘のようなモノ』に近づく。
だが・・・。

「フン・・・コレデ目晦マシノツモリカ。」

サラは近づいてくるイシュタルを真っ直ぐ捕えていた。
お互いが視界に入った瞬間、待ってましたと言わんばかりに『リザイア』を繰り出す。

「ぐあっ!」
サラに向かって一直線に動いていたイシュタルは『リザイア』をかわせず、そのまま直撃を食らう。
2人が対峙してから初めての直撃である。

(くっ・・・やはり、サラに『予知』の力がある限りは近づけないのか。)
(いや、何かあるはずだ! 必ず見つけてみせる!)

そして、再び光の応酬が始まった。
しかし、『リザイア』の直撃を食らい、しかも継続して動きつづけるイシュタルは明らかに不利だ。

「あっ!?」

そして、ついに体がついていかなくなり、イシュタルは無様に倒れてしまった。
その隙を見逃すサラではない。

「モラッタ!」

(まずいっ!)

だが、サラが必殺の一撃を繰り出そうとしたまさにその時、彼は現れた。

「イシュタル殿、サラ殿、無事かっ!?」


--巡り会い--

それは瞬きする暇もないほどの短い時間で起こった出来事だった。

サイゾーが大聖堂に入った瞬間、目に入ったのは2人の魔道士。
一人はイシュタル、そしてもう一人は・・・昨夜、サイゾーの前に現れた少女だった。
サイゾーはその少女こそがサラであることも既に解っていた。

サイゾーが大聖堂に入るとほぼ同時に、イシュタルが動いていた。
目にも止まらぬほどの速さでサラに近づき、その足元にある『釘のようなモノ』を引き抜く。
そのまま呪文の詠唱を始めたかと思うと、あっという間に姿を消す。
そして、イシュタルの姿が消えたかと思うと、サラがその場に崩れ落ちる。

(!! 危ない!)

サイゾーは、目の前で何が起こったのかを考える前に体が反応していた。
素早くサラに近づき、間一髪のところでサラを抱きとめる。

「・・・危ないところだった。」
「しかし・・・何が何やら解らないな。」

と呟いたところでイシュタルが再び姿をあらわした。

「ふぅ・・・どうにか丸く収まったか。」
「イシュタル殿!? ・・・大丈夫だったか?」
「・・・正直、あまり大丈夫ではない。サラとまともにやり合ったのは初めてだからな。」
「!! そうだ! サラ殿は大丈夫なのか!?」
「ああ。暗示の解けたショックでしばらく気を失っているだけだ。じきに目を覚ますだろう。」
「暗示? どういうことだ?」

イシュタルはこれまでの経緯を説明した。
また、サイゾーが大聖堂に入ってきた時に何が起こったのかということも説明した。

簡単に説明するとこういうことらしい。

サラは野盗の中にいた魔道士に暗示を掛けられた。
サラの暗示を解くにはその魔道士を倒すのが一番確実かつ早い。
ところが、この神殿には魔法を制御する結界が張ってあり、『転移』や『透視』の魔法は使えない。
そして、その結界の元となる『媒体』はこの大聖堂にあるのだという。
そこで、イシュタルはその『媒体』を取り除き、神殿の結界を解除することにした。
イシュタルの手にある『釘のようなモノ』はその『媒体』なのだという。
4つ目まではうまく回収できたのだが、5個目がサラの真下にあったため回収が困難だった。

そして、サイゾーが大聖堂に現れた時の話に入る。

サイゾーが現れた時、サラは新たな侵入者に驚き、注意がサイゾーの方にいってしまった。
そして、その隙をついてイシュタルは5個目の『媒体』を回収し、神殿の結界を解いた。
結界が解けると同時に『透視』の魔法で魔道士の場所を突き止める。
あとは『転移』の魔法で魔道士のいる場所に移動して、魔道士を倒したということだ。

イシュタルは何でもないことのように語っていたが、『透視』や『転移』の魔法を
媒体(普通は杖)なしで瞬時に唱えることは並大抵のことではない。
まさにイシュタルだからこそ出来た芸当である。

「そうか・・・まさに間一髪というところだったわけだな。」
「ああ。サイゾー殿には感謝している。」

そこでイシュタルは何かを思い出したのか、妙に楽しそうな顔をした。

「?」
「・・・そうそう。魔道士が居た部屋に、意外な人物がいたぞ。」
「意外な人物?」
「と言ってもサイゾー殿は面識が無いと思うがな。」
「??? ますます解らないな。」
「すぐに会えるさ。多分、サイゾー殿にとっては良い知らせだぞ。」

と言って、イシュタルはサラを抱えて大聖堂の一角へと歩き出した。

「付いて来てくれ。」
「あ、ああ・・・。」

大聖堂の一角で、イシュタルは何やらスイッチを押した。
すると今まで壁だった部分が一瞬で扉へと変化する。

「これは・・・?」
「魔法による隠し扉だ。まぁ、意外と原理は簡単なんだがな。」
「さて、この奥がサラの部屋になっている。行くぞ。」

扉の中には細い通路があり、その奥に小さな部屋があった。
そして、イシュタルが「サラの部屋」と言ったにも関わらず、
その部屋にあるベッドには誰かが横になっていた。
それは、まだ少年としての幼さが残っている感じの青年だった。
青年は、サラの姿を確認すると同時にベットを飛び降りるように駆け寄ってきた。

「サラ! 無事だったんだね!?」
「ああ。もう大丈夫だろう。今は気を失っているがな。」
「イシュタルさん、有難う。」
「まったく・・・お前がもう少ししっかりしていればこんな事にはならなかったぞ。」

「あー、イシュタル殿。」
「うん?」
「話が全く見えないので、ちょっと説明して欲しいのだが・・・。」
「ああ、そうだったな。悪い。」

ここで青年はようやくサイゾーに気が付いたようだ。

「あなたは?」
「私はサイゾー。この大陸ではなく、バレンシア大陸の者だ。」
「サイゾーさん!? 黒騎士アレスと対等に渡り合った?」
「? 何故そのことを?」
「ああ、私の紹介がまだでしたね。」
「私の名はリーフ。トラキアの王です。」
「!! そうか・・・あなたがリーフ殿か。」
「これで役者が揃ったということになる。そうだろう、サイゾー殿?」
「まぁ、そういうことだな。」
「???」

今度はリーフが困惑する番だった。

このまま話をしても混乱するので、とりあえず情報交換をすることになった。
気絶したままのサラはすでにベッドに寝かせてある。

サイゾーはサラとリーフを探してきた経緯を。
イシュタルはサラを保護してからこれまでの経緯を。
そしてリーフはトラキアを出てからここに来るまでの経緯を。

それによると、リーフがここに来るまでの経緯はこういうことだ。

実は、リーフがトラキアを失踪してどこに向かったのかというと、真っ直ぐイード砂漠に来た。
サラの性格や状況を考えると、イード神殿以外に考えられなかったとのことだ。
まぁ、実際それは当たっていたわけだが。
しかし、砂漠にあまり慣れていないリーフの足ではイード神殿までの道のりは困難を極めただろう。
サラが神殿の近くで発見したときには既に命の危険にさらさらている状態だったのだ。

ちなみに、リーフ君はイード神殿の位置を知っているという設定になってます。

「で、弱っていたところを野盗に人質にされて、サラが暗示を掛けられたわけか。」
「・・・面目ありません。」
「サラ程の魔道士があっさり暗示にかかるのはおかしいと思っていたのだが・・・」
「まぁ、原因がお前だったらとりあえず納得というところだな。」

「しかし、サラ殿はよく砂漠でリーフ殿を発見できたものだな。」
「ああ、サラには『予知』という能力があるからな。多分それで見つけたんだろう。」
「『予知』とは?」
「そのままの意味だ。近い未来に起こる出来事を映像として見れるらしい。」
「ただ、ごく近い未来しか見れないし、自分自身の未来は見えないということだが。」
「ふむ・・・便利なのか難儀なのかわからん能力だな。」

「そういえば、アルテナはどうした?」
「ああ。あの集落に残っているはずだ。」
「ここに来ることは書いておいたから、明日の朝一番で来るだろう。」
「意外だな。一緒に追ってくると思ったが。」
「砂漠を走って来たからな。・・・アルテナ殿には悪いが、足手まといになると思ったのだ。」
「なるほど。」

こんな感じの会話が続く中、ようやくサラが目を覚ました。

「ん・・・。」
「サラ! 気が付いたんだね!」
「・・・リーフ・・・様? ・・・ここは?」
「ここはサラの部屋だよ。大丈夫、野盗はもういないから。」
「そう・・・私・・・確か・・・暗示を・・・掛けられて・・・。」

「ああ、暗示を掛けた魔道士ならとっくに始末したから安心していいぞ、サラ。」
「!? ・・・イシュタル!」
「まったく・・・あまり無茶をするもんじゃない。」
「ごめんなさい・・・。でも、砂漠に倒れたリーフ様の姿が『見えた』から・・・。」
「・・・まあいいさ。今日はゆっくり休むことだ。今後のことは明日決めればいい。」
「ありがとう。イシュタル。」

そして、サラはサイゾーの方を向いた。

「・・・初めまして。サラです。」
「初めまして。・・・と言っても、昨日会っていると思うが。」
「やはり・・・あなたが『もう一つの大陸』でしたね。」
「ああ。私はサイゾー。お察しの通り、この大陸ではなくてバレンシア大陸の出身だ。」
「では・・・これで一つの結末がもたらされたという事ですね。」
「どうだろうな。悪い方向には行っていないと思いたいが・・・。」
「大丈夫。・・・きっと良い方向に向かっていますよ。」

「ふぅ・・・少し疲れました。詳しいことは明日にしましょう。」
「ふむ、そうだな。皆疲れているし、今はこれで終わりにしておくか。」
「サイゾー殿には部屋を貸してやろう。ゆっくり休んでおくといい。」
「かたじけない。」
「リーフ殿はどうする? サラの側に居るか?」
「いえ。今は一人にしてあげた方がいいでしょう。私も別の部屋を貸して頂けますか?」
「わかった。それぞれ部屋を貸すことにしよう。」
「ありがとう、イシュタルさん。」

そして、再び巡り会った4人はそれぞれ眠りにつくことに。


--深夜の密談--

その夜・・・。

イシュタルは一人、神殿の片隅で静かに星を見ていた。

「・・・眠れないのか?」
「サイゾー殿か・・・。横に座るか?」
「ああ、そうさせてもらおう。」

しばらく2人ともそのまま何も言わずに座っていたが・・・

「・・・やはり、私の術は失敗していたらしいな。」
「なんだ。とっくに気づいていたのか。」
「ああ。イシュタル殿の行動や言動を見ていればいやでも解るさ。」
「そうか。・・・後悔、しているか?」
「・・・いや。あの時の私はああすることが最良だと考えていた。だから、後悔はしない。」
「ふっ・・・やはり面白い男だ。」

「そういえば、礼を言っていなかったな。・・・ありがとう、サイゾー殿。」
「!?」

はっきり言ってサイゾーにとって、これほど意外な言葉は無かった。
仮にも他人の意識に介入しようとしたのだ。

(それがどれほどの禁忌か知らぬイシュタル殿でもあるまいに・・・。)

だから、自分は恨まれこそすれ、感謝されるなどとは思っていなかった。

「・・・恨んで・・・いないのか?」
「確かにサイゾー殿は私の意識に介入しようとした。」
「だがな・・・結果として私は過去から開放された。それに、実際には自分の意識に介入されていないわけだ。」
「「終わり良ければ全て良し」という言葉もある。それでいいんじゃないのか?」
「・・・イシュタル殿は変わった人だ。」
「ふん、サイゾー殿に言われたらお終いだな。」

2人はお互いに顔を見合わせ・・・。

「フフフ・・・。」
「フフ・・・。」

「アハハハハハ・・・!」

お互いに大笑いし始めた。

はっきり言って、二人ともあまり笑わないタイプの性格だ。
しかも、立場的には対立していた二人である。
この光景をアルテナやシャナンが見れば目を丸くしたであろうことは想像に固くない。

さて・・・放っておけばいつまでも笑っていたかもしれない2人は、第3者の登場で打ち切られる。

「イシュタル・・・。」
「? ・・・ああ、サラか。」

サラは2人の笑い合っている光景を見ていたのかもしれない。
こころもち嬉しそうな表情をしている。

「どうした? サラも眠れないのか?」

サラは黙って頷いた。

「じゃあ、隣に座るといい。」

サラはもう一度頷き、イシュタルの隣・・・サイゾーとは逆の位置に座った。
そのまま3人はしばらく星を見上げる。

・・・どのくらい経った頃だろう。
サイゾーが不意に切り出した。

「・・・なぁ、サラ殿。教えてくれないか?」
「・・・何を、でしょう?」
「そうだな。トラキアから逃げた理由が聞きたい。」
「!? サイゾー殿、それは・・・。」
「いや、確かに大方の見当はついている。だが、私は本人から聞きたいのだ。」
「・・・いいでしょう。話します。」
「本当に・・・いいのか?」

イシュタルはサラを見た。
サラはその視線を真っ直ぐに受け止め、力強く頷く。

「・・・サイゾーさん、私が・・・『呪われた姫君』の異名を持つことをご存知ですか?」
「ああ・・・。一度だけ、アルテナ殿がその言葉を言っていた。」
「では・・・その異名の意味は・・・知っていますか?」
「いや・・・。」
「私は、ロプト教団の大司教・・・マンフロイの・・・孫娘なのです。」
「なっ!?」
「もちろんそれは決して明かしてはならない秘密でした。」
「・・・普通の少女として過ごしたトラキアの日々は、私にとって最高の日々でした。」
「ですが、ほんの些細なことがきっかけとなって、秘密が明かされてしまったのです。」
「・・・それは、いつ頃のことだ?」
「そうですね・・・。今から半年ほど前でしょうか。」

(この少女は・・・半年もの間、トラキアで迫害を受けつづけて来たというのか・・・。)

「・・・それから、私の生活は一変しました。」
「城の片隅に幽閉され、食事も睡眠も満足に取れない日々が続きました。」
「それでも、毎日のようにアルテナ様やリーフ様が会いに来てくれていました。」
「「必ずここから出してやる!」という言葉を信じて、私は過ごしてきたのです。けれど・・・」
「けれど・・・?」
「1ヶ月ほど前でしょうか・・・。不意に、リーフ様が会いに来なくなったのは。」
「・・・ショックでした。アルテナ様に聞いても決して答えてはくれず、「リーフを信じろ!」と言われるだけでした。」
「そして、その状態が1ヶ月続いた時、私は一つの『賭け』をする決心をしたのです。」
「『賭け』・・・とは?」
「それが・・・トラキアを逃げた理由。」
「もし、逃げた私をリーフ様自身が追ってきてくれたなら・・・」
「その時は、一生リーフ様のことを信じよう、リーフ様の側に居つづけようと。」

サイゾーは、「もし、追ってこなければ?」とは聞かなかった。
聞く必要は無かったのだ。
サラは己の人生の『賭け』に勝ったのだから・・・。

サイゾーは、サラに何か言わなければと思った。
言いたい言葉はたくさんあった。
しかし、実際に言えた言葉は・・・

「そうか・・・。よく・・・頑張ったな。」

ただ、一言だけだった。


そして、不意にサラが夜空を指差した。

「あ! 流れ星。」

見れば、さながら流星群のごとく、たくさんの星が夜空を流れていた。

(ふふふ・・・まるでサラ殿を祝福してくれているかのようだ。)
(願わくば、サラ殿の行く末が幸せであらんことを・・・。)


そして、夜は更けていく・・・。


----------

こうして、サラ、リーフと巡り会ったサイゾー。
(え、アルテナはどうしたって? ・・・次回でフォローします。)

物語は一つの結末を迎え、それは新たな物語を生み出していく・・・。

果たしてサイゾーの行く道とは?

次回、(今度こそ)バレンシア編最終回!

「サイゾーVSイシュタル」(完結編)に、ペン田吟の丞先生のこの一言!

「未熟者ー!」(このネタ解る人スゴい)



<製作後記>この色の文は作者ツッコミです。 いやー、今回はスイスイ進みましたわ。(笑) 長くなりすぎて、結局第2部も完結編が入ることになっちゃいましたが。(爆) まぁ、完結編もネタが固まってますんですぐにUPされるはず。 ところで、今回は意識して描写を飛ばした場所があります。 イシュタルが野盗を倒すところですね。 ここ、設定はちゃんとあるんですが、描写するとかなりグロいシーンになるので書きませんでした。 まぁ、イシュタルがキレてる設定なんで・・・。 ちなみに、野盗の人数は全部で10人程度という設定になってます。 ではでは〜。

戻る