へたれSS_第27回
へっぽこVSシリーズ第27弾「サイゾーVSシリウス」(後編)
広がる穴
ガキィーン
大きい金属音が火花と共に発生する。
既に決闘が始まってからかなりの時間が経過していた。
戦いは膠着状態だった。
お互いに何度か決着を着けるチャンスはあったが、今1歩が踏みこめずにいる。
それはひとえに、精神的なものが枷になっているからに他ならない。
「何故、私に決闘を挑んだ?」
サイゾーは既に何度も繰り返している問いを放つ。
「しつこい男だ。私に勝てば教えると言っているのに。」
シリウスの答える言葉も全く変わらない。
この間にも2人の剣は激しく交差する。
もはや同じ問いを言っても無駄と判断したサイゾーは、質問の方法を変えてみた。
「・・・何故今では駄目なのだ? この場で言うことにどんな不都合がある!?」
すると、シリウスはここまで見せなかった複雑な表情を取った。
サイゾーにはそれが迷っているように見えた。自分の問いに答えるかどうかを。
それは長い時間にも感じられ、一瞬のことのようにも思えた。
そしてシリウスは言った。
「今のお前はまだ真実を知らない。・・・それが答えだ。」
「!?」
シリウスの真意を図りかね、わずかに困惑するサイゾー。
かまわず続けるシリウス。
「まだ気づかないか? お前はここまで自分の意志のみで来たわけではあるまい。」
「!!」
衝撃の言葉だった。
その言葉はサイゾーに一つの確信をもたらす。
そしてその確信は穿たれた穴を広げていく・・・。
一度広がりだした穴を止めることはもはや出来なかった。
そうして、サイゾーはとうとう気づいてしまったのだ。
自分の知らない「真実」が何であるのか。
まだ自分が知らないことは多い。
だが、ひとつの大きな迷いが消えたことは間違いなかった。
「・・・なるほどな。ようやく気づいたよ。」
「結局、シリウス殿を倒さなければ真実を得ることは出来ない。そういうことか。」
「ああ、そういうことだ。」
そして、2人を取り巻く気配が鋭いものに変わる。
それは精神の枷がなくなったことの表れだった。
ここからが本当の勝負だ。
決闘
それは、見ている方が怖くなるほどの死闘だった。
いったい正午からどれほどの時間が経過したのだろう。
すでに中庭に居る面々の影は長い。少なくともそれだけの時間が経過したことになる。
もはや当の2人はボロボロだ。
それでも彼らは戦うことを止めない。
何故それほどまでに戦いつづけるのか・・・。
それは、彼ら自身が一番良く知っている。
ギーン
最初は激しかった金属音ももはや鈍く響くのみ。
お互いに限界を超えていることは明らかだった・・・。
招かれざる訪問者が現れたのはそんな時だ。
「あれ、みんな何やってるの? もうすぐ夕食だよっ。」
元気の良い声が中庭にこだまする。
チキが夕食を知らせに走ってくるのが見えた。
「ハァッ、ハァッ・・・どうやら・・・次が最後だな。」
「ハァハァ・・・そのようだな。」
チキのいる場所からはかなりの距離がある。
あと一撃なら十分に時間はあった。
いや、正確にはどちらもあと一撃が限界だったと言うべきか。
最後の力を振り絞り、2人は走る。
そしてお互いが交差しようとしたその時・・・。
ガァー!!
人のものではあり得ない声が響いた。
決着、そして・・・
「ばかな・・・何故!?」
「後ろを・・・ゴフッ・・・見てみろ。」
サイゾーに言われるままに後を振りかえったシリウスは、それで全てを理解した。
うずくまるチキの横には、羽の生えた魔物・・・ガーゴイルが横たわっていた。
そして、ガーゴイルの急所には1本の刀が突き刺さっていたのだ。
「本当は・・・ゴフッ・・・貴公の剣も避けるつもり・・・ゴフッ・・・だったのだが。」
「もういい! それ以上しゃべるな!」
シリウスの剣は、正確にサイゾーの心臓を貫いていた。
誰の目にももはや絶望的な状況だ。
それでもシリウスは言わずにいられなかった。
「ニーナ!」
シリウスの言葉よりも前から既にニーナは行動を起こしていた。
杖を掲げ、詠唱を始める。
「生ある者に眠りし癒しの力よ」
「内なる力を解放し、自らに与えよ」
「其の力は万物に勝る絶対の癒しとならん!」
「リカバー!」
呪文が完成し、傷が少しずつ塞がっていく・・・。
だが、塞がったかに見えた傷は再び大きく開き、血を流し始める。
「駄目だわ! 傷が深すぎる・・・。」
そう言いつつも次の詠唱に入っている。
が、恐らくは気休めにしかならないだろう。
「何ということだ・・・ようやく約束を果たせたと思ったのに。」
「これが・・・これが運命だったとでも言うのか?」
「誰か、誰か答えてくれ。」
「・・・ティータ。」
ところが、シリウスがティータの名を口にした時、不思議なことが起こった。
サイゾーの体が輝き始めたかと思うと、辺り一面が光に包まれたのだ。
あまりの眩しさにその場にいた面々は思わず目をつむった。
そして、次に目を開けた時に見た光景は・・・。
「・・・どういうことだ?」
珍妙な顔で起きあがるサイゾーの姿だった。
何故か心臓の傷はきれい塞がり、剣の痕は全く見当たらない。
着ていた服の方にはくっきりと剣の跡が残っているにもかかわらず、だ。
誰もがキツネに包まれたような顔をする中、ひとつの声が響く。
「う、うーん・・・。あれっ!? 何でみんな変な顔してるの?」
その声に反応するように動いた二つの影があった。・・・モゲ田とSABUROだ。
「チキ! 怪我は無い?」
「大丈夫だった!?」
「ほえ? 何の事?」
チキはまだ状況を把握していないようだ。
恐らく、ガーゴイルに襲われた時に一瞬気を失ったのだろう。
それでも、周囲を見回したチキはすぐに理解した。
「・・・そっか。チキは魔物に襲われたんだね。」
「チキ、大丈夫?」
「えーと・・・うん、大丈夫。別に怪我は無いよ。」
「よかった・・・。」
「って、そうそう。もうすぐ夕食だからみんなを呼びに来たんだった。」
チキの言葉がひとつのきっかけとなり、シリウスがつぶやく。
「・・・そうだな。もう勝負は着いている。」
「ああ、これでお開きにしよう。」
お互いに歩き出そうとして、いきなり足を引っ掛ける。
それはそうだ。あれだけ激しく動いた後で普通に歩けるわけがない。
「カミュ、大丈夫?」
そう言ってシリウスに肩を貸すのはもちろんニーナだ。
「しょうがねぇな。ホラ、俺の肩につかまれよ。」
サイゾーにはモゲ田が肩を貸してくれた。
小柄な割には力があるらしく、特にふらついたりする事もない。
まぁ、その正体が氷竜なのだから当然と言えば当然だが。
そして、中庭に集まっていた一団は静かにその場を後にする。
もはやそこには決闘の痕跡もほとんど無い。
不意にシリウスがサイゾーに振り返った。
「そうそう。忘れるところだった。」
少しおぼつかない手つきで、ゆっくりとシリウスは仮面を取った。
その下に隠されていた素顔を見た時、サイゾーは少なからず驚愕することになる。
笑いながらシリウスは言った。
「久しぶりだな。サイゾーよ。」
「そうか・・・。貴方が仮面の騎士だったのだな。」
「ああ。本当にお前は変わったよ。そして、強くなった。」
「全てを説明してもらえるな? シリウス・・・いや、ジーク殿。」
「もちろんだ。食事後に部屋にうかがおう。」
そして、やはり笑いながら歩き出すシリウス。
その後姿を見つつ、サイゾーは誰にも聞こえない程のかすかな声で言った。
「全て説明してもらうぞ、ミロア殿。」
それに答えるのは声ならぬ声だ。
「・・・ええ、解っていますよ。」
いつのまにか夕陽は沈みかけていた。
明かされる謎
私の名はミロア。母なる大地母神ミラのしもべの1人。
今こそ、試練を乗り越えし者に私が知る全てを語りましょう・・・。
「やれやれ。結局は私が1人で踊っていたのか。」
「すいませ・・・いいえ、今更謝っても遅いですね。」
「そこまで気にすることもあるまい。気づかなかった方にも問題はある。そうではないか?」
「・・・卑怯な。そう言われてはこちらも責める訳にはいかない。」
食事を終えてすぐ、シリウスがサイゾーの部屋を訪ねた。
そこでミロアが話した内容は、サイゾーの想像をはるかに越えるものだった。
何よりも驚かされたのは、ミロアの立場である。
「そもそも、『ミラのしもべ』が人間だというのは初耳だぞ。」
「そうでしょうね。私自身、洗礼を受ける直前まで知りませんでしたから。」
「案外、自分の知人がしもべだったりするのかも知れんな。」
「ハハハ、それはそれで面白そうだ。」
バレンシア大陸には称号の洗礼を行うための『ミラのしもべ』と呼ばれる石像が点在している。
不思議な魔力が宿るこの石像は、大地母神ミラが作ったとされている。・・・それが定説だった。
だが、実際の『ミラのしもべ』とは、ミラの洗礼と呼ばれる儀式を受けた人間の事だという。
そして、ミラのしもべの本当の存在理由は「人ならぬ者」の浄化であるというのだ。
「しかし、何故私が試練を受ける必要があったのだ? 本来は巻き込むべきでは無いのだろう?」
「それは・・・いえ、私が口で説明するのは止めておきましょう。ティータが教えてくれます。」
「ティータ殿か・・・。」
ミロアによると、ティータもまたミラのしもべであるという。
さらに、ティータはミロア以上の真実を知っていると。
ミロアは言う。「全てを知りたいと思うのであれば、ティータに会いなさい」と。
もちろん、ジークが事情を知っていたのは、すべてティータの差し金だ。
ジークはティータの頼みでサイゾーの試練を買って出たのである。
もっともジークは、
「別にお前の為ではない。あくまでティータの為だ。」
としか言わなかったが。
「ところでどうする。すぐにここを発つのか?」
「そうだな・・・どうするか。」
「別に急ぐ必要はありませんよ? もう少し留まってはどうです。」
実は、ミロアが知っている事情は意外に少なかった。
自分自身の正体とサイゾーについて来た理由、そしてミラのしもべについての情報くらいのものだ。
だからサイゾーは迷っていた。
正直なところ、すぐにバレンシア大陸に戻りたい気持ちは強い。
だが、同時に漠然とした不安があった。
大陸に戻ったが最後、もう戻れないのではないか。そんな不気味な予感だ。
そんなサイゾーの心中を知ってか知らずか、ジークが言う。
「なぁ、サイゾー。久しぶりに落ちついて過ごしたらどうだ?」
「ミロア殿の話を聞いていると、最近のお前はほとんど1ヶ所に留まっていないぞ。」
「そうですね。ひとまず決着も着いたことですから、少し休息してはいかがです?」
(うーむ・・・どうしたものか)
そして、トドメはジークのこの一言。
「それに・・・」
「それに?」
「お前がこのまま消えるとモゲ田が泣きそうだ。」
その言葉を聞き、サイゾーは久しぶりに口を開けて大笑いした。
「負けたよ。もうしばらくここに留まろう。」
かくして、サイゾーはもう少し神殿に留まることを決めた。
結果論で言えば、この判断は正しかったと言えるだろう。
こののち、サイゾーは自分のその後を左右する、恐るべき事実を知ることになる。
恐るべき未来
それからしばらくは穏やかな時が流れていた。
ジークの言葉通り、モゲ田はサイゾーをいたく気に入ったらしく、頻繁にサイゾーと会話を求めた。
それにつられるように他の氷竜もサイゾーと話をして、時折ニーナやシリウスもその輪に入っていた。
氷竜たちはサイゾーの話を熱心に聞き入った。
中でもユグドラル大陸の話は初めてだったらしく、サイゾーは細かいことまで質問攻めにされた。
もちろん氷竜たちも豊富な知識をサイゾーに語り、出し惜しみをしなかった。
時は静かに流れる。
そしてサイゾーが神殿を発つ期限が近づいたある日・・・。
夜風に当たろうと中庭を歩いていたサイゾーは、ふと気配を感じた。
誰なのかはすぐに解った。シリウスとニーナだ。
2人の間には妙に深刻な雰囲気があり、サイゾーはつい聞き耳を立ててしまった。
「えっ!? カミュ、それは本当なの?」
「残念だが、本当のことだ。」
「そんな・・・。どうして!?」
(ニーナ殿が声を荒げるのは珍しいな。何の話だ?)
「私も詳しく聞いたわけではないが・・・どうも、ヌイババが関係しているらしい。」
「ヌイババ・・・もうすぐ復活するというあの妖術士ね。」
(ヌイババだと!? ばかな・・・奴は確かに死んだはず。復活とはどういう意味だ?)
だが、サイゾーは考える時間を与えられなかった。
次にニーナが放った言葉が、サイゾーの思考を止めてしまったから。
「じゃあ、ヌイババがサイゾーさんを・・・殺すの?」
(!?)
「恐らくはそういうことだな・・・。」
ガサッ
「!? 誰だっ!」
「・・・サイゾーさん!?」
突然の事態に慌てるニーナ。
なぜか冷静に状況を見るシリウス。
そして、倒れたまま呆然としているサイゾー。
不気味な静寂が中庭を支配する。
「今の話・・・聞いて・・・?」
その言葉で正気が戻ったのか、サイゾーは何も言わず駆け出す。
ニーナも後を追おうとしたが、シリウスがそれを阻んだ。
「カミュ?」
静かに首を振りながらシリウスは言う。
「あの状態では何を言っても無駄だ。少し時間を置いたほうがいい。」
「ねぇ・・・カミュ、どうしてあなたはそんなに落ちついていられるの? 何か変じゃない?」
「そもそも、何故今日になってこんな話を教えてくれたの? カミュ・・・あなたまさか!」
その言葉を聞き、シリウスはわずかに苦い顔をした・・・ように思えた。
運命の選択
いつのまにかサイゾーは部屋に戻っていた。
どうやって部屋まで戻ってきたのかすら覚えていない。
ひとつだけ確かなことは、自分が泣いていたということ。ただそれだけだった・・・。
(私が・・・死ぬ? ばかな! 私は今ここにいるではないか!)
(ヌイババが復活だと? 奴は消滅したはず・・・。)
(いや、違う。あれは恐らく未来の出来事だ。)
(デューテが嘘をついている? いや、それはあり得ない。)
(つまり・・・予言? いったい誰の?)
(精神体・・・か? ミロア殿の例がある以上、可能性はゼロではない。)
(駄目だ・・・私は何も解らない。何も知らない・・・。)
・・・
部屋に差し込む光でサイゾーは目を覚ました。
どうやら、いつのまにか眠ってしまったらしい。
パニック状態だった思考も大方は落ち着いていた。
「ミロア殿は・・・」
「ミロア殿は、知っていたのか?」
静かにサイゾーは問いかけた。
返事はなく、静寂がその場を支配する。
答えが返るまで、ゆうに数分が経過することになった。
「もう、隠すのは無駄のようですね・・・。」
「確かに私は知っていました。あなたのことも、ヌイババのことも。」
「何故・・・」
何故教えてくれなかったのか、と言おうとしたが、それはミロアの言葉に阻まれた。
「以前、私は言いました。真実は時に残酷なものだと。」
「あなたがまだ真実を追うというのなら、もっと過酷な真実が待っています。」
「・・・これが最後です。あなたは、真実を追い求めますか?」
何を言わんとしているのかは明白だった。
ミロアはサイゾーに真実を追う覚悟があるのかを聞いているのだ。
それは同時に、待ちうける真実はそれほどに重いということの表れでもある。
「焦らなくてもかまいません。出発の日までに結論を出してください。」
「たとえ逃げたとしても、誰もあなたを責めたりはしない。・・・それを間違えないで下さいね。」
神殿を経つ日は数日後。
それがサイゾーに残された猶予だった。
それからしばらく、サイゾーは部屋で瞑想を続けた。
考えるべきことは数多くあったが、なかなか思考がまとまらなかった。
(私は旅を始めてから、いつも自分の意志で進む道を決めているつもりだった)
(だが、本当は自分の知らないところで進む道を決められていた・・・)
(私はこのまま運命という名の流れに翻弄されるというのか?)
今まで自分が信じていたことを根底から覆されたサイゾーは何を信じるべきか見失っていた。
ミロアの問いに対しても、どちらが自分の意思なのか解らなくなっていたのだ。
ひょっとしたら自分の意思のつもりが誰かに操られているのではないか、そんな感情が渦巻いていた。
そして、不意に現れた訪問者に対しても、サイゾーは疑心暗鬼になっていた。
「元気がないな。」
「・・・何の用だ。私を笑いに来たのか?」
敵意を剥き出しにしているサイゾーと対照的に、ジークは涼しい顔をしている。
「なるほど、予想通りの反応だ。」
「用がないなら帰ってくれ。お前と話をする気分ではない。」
「気づかないのか? 今のお前は3年前と同じ顔をしているぞ。」
「五月蝿い、帰れ!!」
「・・・馬鹿が。」
捨て台詞を残してジークは去っていった。
そして再びサイゾーは1人になる。
この会話が追い風となったのか、サイゾーの不信感は増していった。
もはや誰も部屋に入れることはなく、誰の声にも耳を傾けようとはしない。
そして、根気よく訪問を続けていたニーナも、いつしか来なくなってしまった。
だが、もちろんこれで終わりではない。
間もなく、転機の時が訪れる。
再会
いよいよ神殿を発つ日が明日に迫った。
だが、やはりサイゾーは誰とも会わない日々を過ごした。
このままでは明日に神殿を発つのは不可能だろう。
誰もがそう思っていた。
しかし、この日の夜、事態は急転する。
サイゾーは静かに夜の神殿を歩いていた。
別に用事がある訳でも、夜風に当たろうと思ったわけでもない。
ただ、歩いていた方が何も考えずに済むからそうしているだけだ。
不意に声が響いた。
「うわー、酷い顔。」
(・・・誰だ?)
ゆっくりとサイゾーは振り返る。
そこには、1人の女性が静かにたたずんでいた。
少し少女の雰囲気を残しているものの、大変な美人だ。
サイゾーは美意識に乏しい方だが、それでも十分に美人だと感じるほどの。
「えへへ・・・久しぶりだね。」
「・・・悪いが、私には貴方のような人に知り合いは居なかったと思うが?」
その言葉に女性はちょっと傷ついた表情を見せた。
「うーん、やっぱり解らないかぁ。」
「だから知らないと言っているだろう。」
「じゃあ、これで解るかな。」
女性は少し間を置いた後、笑顔で言った。
「久しぶり、お兄ちゃん!」
「!!」
(まさか!? こんな場所に居るはずが・・・)
それでも確かめずにはいられない。
「・・・デューテ、か?」
「うん、そうだよ。」
少女の面影を残した女性は、満円の笑顔で答えたのだった。
初心
「・・・という訳だ。」
「そっかぁ・・・。母さんが。」
「あまり驚かないんだな。」
「うん。母さんが指輪に宿ってることは知ってたし、それに・・・。」
「それに?」
「あ、ゴメン。これは秘密なんだ。」
ここ数日ですっかり人間不審に陥っていたサイゾーだが、不思議とデューテの前では落ちついた気分になれた。
そして、気がつけばデューテにこれまでの経緯を話す自分がいたのだ。
自分の内情をありったけ吐き出し、かなり楽になっていることが自分でも解った。
葛藤が完全に消えたわけではないが、今なら冷静に話ができるだろう。
サイゾーは静かにデューテの言葉を待った。
「・・・ねぇ、お兄ちゃん。デューテと初めて会った時のこと、覚えてる?」
「ああ。」
「あの時言った言葉は?」
「あれか。あまり思い出したくはないな・・・。」
「ふふっ。やっぱり思い出したくないんだ。」
「だっていきなり赤の他人に「お兄ちゃんになってやる!」だもんね。」
「うっ!」
過去の恥ずかしい台詞を復唱され、顔が赤くなっていくのが自分でも解った。
だが、デューテはそんなサイゾーに微笑みながら言う。
「でもね・・・。」
「私にとっては、あの言葉が救いになったんだよ。」
「あの言葉があったから、デューテは今ここにいられたと思うんだ。」
デューテは何を言いたいのだろう?
話が今ひとつ見えなかったが、黙って聞き続ける。
「まぁ、お兄ちゃんは深く考えて言ったんじゃないだろうけど。」
「ううっ・・・痛い所を。」
「でも、それでいいと思う。」
「デューテ?」
「たぶん、今のお兄ちゃんはいろんな事を考えすぎなんだよ。」
「考えても解らないんだったら、何も考えずに過ごしてみるのもアリだよ。」
「きっと、お兄ちゃんが思ってるほど、答は難しくないって。ね?」
デューテの話を聞いていると、自分が悩んでいた事がとてもちっぽけに見えて恥ずかしかった。
何故自分はあれほど悩んでいたのだろう。
何故誰も信じられなくなるほど自分を追い詰めていたのだろう。
自分の欲しかった答えは、もっと簡単なところにあったというのに。
「元気、出た?」
「ああ、もう大丈夫だよ。・・・ありがとう、デューテ。」
そう言ったサイゾーから、先程までの深刻さはもはや感じられない。
「じゃあ、デューテはもう行くね。」
「えっ!?」
不意にデューテの姿が揺れ、体が半透明になっていくのが見える。
一瞬、サイゾーに不吉な考えがよぎった。
「大丈夫。もと居た場所に戻るだけだから。」
「お兄ちゃん、もうすぐ帰るんでしょ?」
「ああ、そうだな。」
「じゃあ、今度はソフィア城で会おうね。・・・約束、だよ?」
「わかった。ソフィア城で会おう。・・・約束だ。」
「うん、またね・・・。」
その言葉と同時に、デューテの姿は完全に見えなくなった。
再びサイゾーは一人になる。
だが、その表情は晴々としており、そこに迷いは存在しない。
(まずは、皆に謝らなければな・・・)
神殿を発つのは明日。
それでもやるべきことはまだ残っている。
忙しくなるであろう予感と共に、サイゾーは久しぶりの安眠に身を委ねていった。
そして、歯車は回り始める
翌朝、久しぶりに指輪をはめた。
それは同時に、ミロアに答えを言うということでもある。
指にはめるとほぼ同時に、馴染みのある声が頭に響いた。
「答えが出たようですね。」
「ああ。ずいぶんと待たせてしまったな。」
「では、聞きましょう。・・・あなたは、真実を追い求めますか?」
「答は・・・判らない。」
たっぷり3秒待って、間の抜けた返事が来た。
「は!?」
「真実を追いたいという気持ちは確かにある。」
「だが、真実の先にあるものが怖い、だから追いたくない。そんな恐怖もある。」
「どちらも私自身の偽らざる本音だ。」
「だから答はわからない。・・・それでは駄目だろうか?」
今度は返事が来るまでに10秒以上の間が空いた。
「あはははは・・・! す、すいません。でも・・・あははは!」
「!?」
ミロアの返事から察するに、どうもこの10秒は単に笑っていただけらしい。
どんな返事が来るかと内心緊張していたサイゾーは拍子抜けだ。
さらに待つこともう10秒、ようやくミロアの笑い声も収まった。
「ごめんなさい。でも、あまりにも意外な答えだったので。」
「そんなに意外だったか?」
「あれだけ悩んでおいて、出した答が「判らない」というのは予測できませんよ、さすがに。」
「・・・まぁ、確かに。」
「でも、それで良いのかもしれません。」
「いくら考えても判らない時は、素直に「判らない」と言えることも大切なことですから。」
「それで、これからどうするつもりですか?」
「聞かなくても解ってるだろう?」
「まぁ、一応ということで。」
「帰るさ。バレンシア大陸に。」
何を今更、という感じでサイゾーは答えた。
「元気になったんですね。よかった・・・。」
「ニーナ殿、すまなかったな。」
「いいえ、謝る必要はありません。」
「だが・・・。」
ニーナは黙って首を振る。
「人はいつでも強いわけではありません。」
「怒りたい時は怒ればいいし、泣きたい時は思い切り泣けばいいんです。」
「自分を押さえてばかりでは、いつか倒れてしまいますよ。」
ニーナと対照的に、ジークの対応は冷たかった。
「なんだ、やっと元に戻ったのか。人騒がせな奴だ。」
「ジーク殿には八つ当たりをしてしまったな。・・・すまなかった。」
「それが解る程度には回復したわけだ。それなら十分か。」
「ふふ。カミュはこんなこと言ってますけど、けっこう心配してたんですよ。」
「こ、こら! 余計なことは言うな。」
「別に照れなくてもいいのに。」
「まったく・・・。」
「おっと、大事なことを忘れるところだった。これを受け取れ。」
不意にそう言って、サイゾーに何かを投げる。
それは指輪だった。しかも、サイゾーがいつも身につけている『祈りの指輪』に酷似していた。
「これは?」
「それは『聖なる指輪』。ティータから預かったものだ。」
「試練を越えた証として、お前に渡すように頼まれていた。」
「わかった。受け取っておく。」
「その指輪には強い魔力があるらしい。何かの役に立つかもな。」
そして、ついに別れの時は来た。
「とうとう、行っちまうんだな・・・。」
「モゲ田たちも元気でな。・・・次は気付かれない程度に腕を上げろよ。」
「へっ、言われなくても。」
「セイ様〜。」
「いけいけごーごーじゃーんぷっ!」
「未熟者ー!」
「地蔵型ロボット、SABUORでーす。」
後ろでは謎の雄叫びも響いていたりする。
別れるのが辛いのか、単に叫びたいだけなのかは謎だが。
「もう、当分は会えませんね・・・。」
「バレンシアの連中によろしくな。」
「そちらも元気で。・・・また会おう!」
最後の別れ際、ニーナがそっと一言つぶやく。
「どうか、かの者の運命に幸あらんことを・・・。」
そして、神殿が見えなくなった頃。
ミロアが不意に切り出した。
「・・・サイゾーさん。」
「何だ?」
「やはり、最後にどうしても聞いておきたいことがあります。」
「あなたは、何の為にバレンシア大陸に帰るのです?」
サイゾーの顔にわずかな迷いがよぎる。
だが、次の瞬間には元の表情に戻っていた。
「さあな。」
「なるほど・・・良い答えですね。」
「そうか?」
「そうですよ。」
なんとも不思議な会話を交えながら、2人はルテキアの街を目指していく。
迷いが晴れた訳ではない。
自分が知らないことは数多い。
それでも、そしてだからこそ、サイゾーはバレンシアを目指すのだ。
自分自身との決着を着けるために。
その結末は、まだ誰も知らない・・・。
----------
ミロアに告げられた真実は、サイゾーに多大な衝撃と恐怖を与えた。
だが、デューテとの思いがけない再会が彼を救う。
様々な想いを胸に、懐かしい大陸へと帰る日は来た。
サイゾーを待ちうける運命という名の未来は、どんな結末を見せるのか?
次回、サイゾーSSもいよいよクライマックスへ!!
しかしタイトルはまだ未定だ! それで良いのか管理者よ?(爆)
管理者「ここは一つ、あのヒトに締めてもらいましょう。カモーン・・・???ちゃん!」
???「えっ・・・私?」
管理者「好きな決め台詞をお願いします。」
???「うーん・・・。じゃあ、これで。」
???「お兄ちゃん、可憐お願いがあるんだけど・・・。」
管理者「可憐のお願いは聞けないな。」
ベキッ!(強烈な右ストレートで一発KOの管理者)
(そしてそのまま降りる幕)
完。
<製作後記>
いきなりですが、言い訳から・・・。
自分で言うのもなんですが、今回は解りにくい、あるいは変な文章が多いかと思います。
当初の予定と全然違う展開になってしまって、全体像が狂っちゃってるんです・・・。
本当はサイゾーとミロアに会話させてそのまま終わる予定だったんですけどね。
ツッコミがあればどしどし掲示板にでも書いてください。
あと、心臓を刺されたサイゾーが復活するシーンで、その理由が謎になってますが、
これは別に書き忘れたわけじゃありません。
これまでの展開と、その後の会話からある程度は解ると思います。
作者の裏設定ではかなり複雑になってたりしますが。(笑)
まぁ、なんだかんだの第3部もこれでお終い。
次の第4部(バレンシア編その2)でサイゾーSSは完結します。(って前回も書きましたね)
ただ、諸所の事情でしばらくは書くことが出来ない可能性が高いですね。
予定では9月に入った辺りから執筆を再会する予定なので、読者は気長にお待ちあれ。
あともう一つ。
第4部では、タイトルを「サイゾーVS○○」にするつもりはありません。
予定では漢字2文字で統一しようかと。
大したことじゃないんですが、一応。
では。今度は第4部でお会い?しましょう。