へたれSS_外伝第1回 サイゾーSS 番外編その1 「銀の魔道士」
--辺境の村にて--

ここは、ユグドラル大陸の何処とも知れない辺境に位置する村。
その村に、あきらかに場違いな1人の魔道士の姿があった。

「・・・平和だな。」

だれに言うでもなく、その魔道士・・・イシュタルはつぶやく。

イシュタルは現在、大陸を見て回る旅に出ていた。
そして、ユグドラル大陸の辺境にあるこの村に辿り着いたのだ。
最初に驚いたのは、この村の人々は『聖戦』を知らなかったということ。
ただ、太陽とともに起き、日中は畑を耕し、日没とともに寝る。
村ではそんな生活が当たり前の日常だったのである。

フリージ家の血に縛られ、常に戦いの中で生きてきた彼女にとって、それは純粋な驚きだった。
そして、同時に生きていて良かったとも思う。
生きているからこそ人は驚き、笑い、泣くのだということを実感する。

不意に、イシュタルは感傷に浸る自分を感じていた。

「そうか・・・もう、『聖戦』が終わってから2年も経ったのだな。」


-回想モード学園(ぉ-

--2人だけの真実--

ここは、バーハラの西に位置する森の中。
『聖戦』も最後の時を迎えようとしていたほんの少し前、2人の魔道士がこの森で対峙していた。

「・・・どうしても、戦わなければならないの? イシュタル。」
「くどいぞ! もう語ることは無いと言ったはずだ、ティニー。」
「何故なの!? 戦う必要が無いことぐらい、あなたにも解っているはずなのに・・・。」
「今の私にはユリウス様の側が唯一の『帰る場所』なのだ! お前達がユリウスの敵である限り、私は戦う!」
「・・・わかった。・・・もう何も言わない。」

とは言ったものの、ティニーの相手は大陸一と言われる魔力の持ち主。
正面から1対1で戦っても勝てるとは思えなかった。

「それでも、やらなくちゃいけない・・・。」
「これは、きっと私にしか出来ないことだから・・・。」

ティニーは、イシュタルにも聞こえないほどの小さい声で呟いた。
そして、それが戦いの合図となった。

「サンダー!」
「ウインド!」

お互いに、まずは小手調べという感じの魔法を繰り出す。
もちろんこの程度の魔法で傷を負わせられるとは思っていない。
相手の手の内を測っているのだ。

「ファイアー!」
「アイスストーム!」
「ダイアキュート!」
「ブレインダムド!」

「呪文が違うぞ!」ってツッコミはナシということで(笑)

そして、お互いに持っている魔法をある程度出したところで、2人は上級呪文の詠唱に入った。
しかも、同じ呪文を同じタイミングで・・・。

破壊を象徴せし雷の神よ
我が声に応えその力を現世に現せ
汝の力は一筋の閃光を描き
我が前に立ち塞がるものに防ぐ術無し!

「トローン!」

お互いの放った閃光がぶつかり、激しい火花が散る。
それは、正面からの魔力と魔力のぶつかり合い。
純粋に魔力の弱い方が押し返されることになる。

そして・・・

「きゃあっ!」

押し負けたのはやはりティニーだった。
イシュタルの放った閃光が身体に直撃する。
しかし、ティニーの魔力によって威力が相殺されているため、致命傷には至らない。

「悪いな。雷の魔法で私に勝つなど無理な話だ。」
「そう・・・『雷神』の二つ名は伊達ではなかったということなのね。」
「どのみち、その身体では動くことなど出来まい。」
「せめて、楽に死なせてやろう・・・。」

そう言うと、イシュタルは一つの魔道書を手に持ち、詠唱を始めた。

我が血の盟約により命ずる・・・
我の持つ力は魔法騎士トードの力。すなわち・・・雷!
雷の象徴は一切の破壊
今こそその力を解放し
我が前に在るもの全てに
完全なる絶望と消滅を示さん!

「・・・これが・・・『トールハンマー』・・・。」

イシュタルの頭上に巨大な黒い球体が出現する。
それは、まるで小さなブラックホールであるかのように思えた。
おそらく、あの球体に触れた瞬間に『死』が訪れるだろう。

しかし、『トールハンマー』の詠唱が完成する直前、「それ」は起こった。

バーハラ城の方角から一筋の光が空に向かって伸びていき、
同時に城の方角から歓声が上がったのだ。

「!!」
「そ・・・んな・・・。ユリウス・・・様。」

そして、同時にイシュタルの詠唱が止まる。
詠唱を止めたことにより魔力は霧散し、黒い球体も消滅した。

何が起こったのかはテイニーにも理解できた。
これで、『聖戦』が終結したのだ。

だが、こちらはこれで収まるはずもなかった。

「どうして・・・どうして!」
「貴方が死ぬ時は、私が側にいると・・・約束したのに!」

涙ながらに叫ぶイシュタル。
ティニーには何も言えなかった。
彼女には、こんな時に掛けるべき言葉を知らなかったのだから。

不意に、イシュタルが右手を上げた。

「!? いけないっ!」

ティニーには、イシュタルが死ぬつもりだということが瞬時に理解できた。
おそらく、自らの魔力を全て自分にぶつけるつもりなのだ。

「ダメ、間に合わない!」

しかし、イシュタルが魔力を開放したかに見えたその時、
その魔法力が全て中和される様をティニーは見た。

「えっ・・・?」
「!?」

2人はお互いを見た。
だが、共に何が起こったのか解らないという顔をしている。

ティニーの仕業ではない。
彼女の魔力では、イシュタルの魔法力を中和するには足りないのだ。

「イシュタル・・・聞こえるかい?」

そこに、突然第3者の澄んだ声が響き渡った。
2人ともその声には聞き覚えがあった。いや、忘れたくても忘れられない声だ。

「この・・・声は・・・。」
「・・・ユリウス様っ!?」

「ユリアが・・・暗黒神の魂を浄化してくれたんだ。」
「久しぶりに・・・本当の自分を持つことが出来た。」

「ユリウス様、どこにいるのです? 姿を見せてくださいっ!」

「残念だけど、もう行かなくちゃいけないんだ・・・。」

「そんな! ユリウス様!」

「我が侭だとは思うけれど、僕の最後の願いを聞いて欲しい。」

「ユリウス様! 最後だなんて言わないで下さい! 貴方が居なければ私は・・・。」

「イシュタル・・・どうか・・・生き続けて欲しい。」
「君にとっては辛い試練になると知っている・・・。でも、それでも・・・生きていて欲しいんだ。」

「・・・。」

「どうか・・・覚えていて・・・欲しい。」
「僕は・・・ずっと・・・君を・・・見ている。」
「いつまでも・・・君を・・・愛して・・・いる・・・と・・・。」

そして、周囲の空気が変化するのを2人は感じた。

「!! ユリウス様! ユリウス様っ!」

しかし、その声に応える声はもう聞こえなかった。


束の間の静寂が訪れ、お互いの胸中に様々な想いが交錯する。
そして・・・

「イシュタル・・・。」

先に声を出したのはティニーだった。

「・・・なんだ・・・まだ・・・いたのか?」
「イシュタル、帰ろう。バーハラ城に。」

「帰る? 私が・・・バーハラに?」
「・・・フフフ。」
「イシュタル?」

「ふざけるなっ!」
「きゃあっ。」

大声とともに魔力を放出するイシュタル。

「今更バーハラに戻ってどうしろと? 解放軍に捕えられて処刑されるに決まっている!」
「そんなことない! ちゃんと話せば、みんな解ってくれるわ。」
「どちらにせよ、今更バーハラには戻らないさ。どうしてもというのなら・・・」

再びイシュタルは魔法を放つ。

「私を倒すことだな!」
「イシュタル・・・。」

そして、再び魔法の応酬が始まった。

だが、しばらくしてティニーが異変に気づいた。
一見、的確に魔法を放っているように見えるイシュタルだが、
標的であるティニーに対して少し位置をずらしながら放っているのだ。
しかも、使っている魔法も『サンダー』や『ウインド』といった初期魔法である。

つまり、イシュタルはティニーを倒すつもりが無いということになる。
もし倒すつもりであれば、『トローン』や『トールハンマー』といった上級魔法を使えば一瞬で終わるのだから。
ティニーは魔法の応酬をしながら考えつづけた。
そして、ある一つの結論に辿り着く。

「!! イシュタル・・・まさか!?」
「どうした? 私をバーハラに連れて行くのではないのか?」

イシュタルの使う魔法が激しくなる。
しかし、やはり狙う位置は少しずれたままだ。

不意にティニーが反撃を止め、無防備な構えを見せた。

「!? ・・・なんのつもりだ?」
「イシュタル・・・黙ってこの場を立ち去ってはくれない?」
「・・・それを、私がするとでも?」
「・・・でしょうね。だったら、これでどう?」

ティニーは何を思ったのか、懐に持っていた剣を自分自身に向けた。

「!! ティニー・・・おまえ・・・。」
「お願い・・・この場を立ち去って・・・。でないと、あなたは・・・。」

しばし対峙した後、ついにイシュタルは折れた。

「・・・わかったよ。私の負けだ。」
「・・・ありがとう。」
「・・・もう、会うことも無いだろう。・・・元気でな、ティニー。」

そう言って、静かにイシュタルは歩き出した。
どこかに行く当てがあるわけではない。
しかし、その強い足取りは、彼女が生きる意志を持っている証だ。

イシュタルの姿が見えなくなった頃、ティニーは静かに呟いた。

「・・・さようなら。・・・義姉さん。」

そして、自分もまた歩き出した。
興奮の冷めないバーハラへと向かって・・・。


--知られざる嘘--

「ティニー! 無事だったんだな!」

バーハラへと着いた時、最初に駆け寄ってきたのは実兄のアーサーだった。
イシュタルとの決戦に1人で赴いた妹が心配でしょうがなかったのだろう。

「ティニー、お疲れ様。・・・つらい役目を与えてしまったね。」
「・・・いいえ。私が自分で望んだことですから。」

次に解放軍の主導者であるセリスが話しかけてきた。

「・・・イシュタルは?」
「・・・。」
「いや、答えにくいんだったら言わなくても構わないさ。」
「・・・義姉さん・・・いえ、イシュタルは・・・死にました。」
「・・・そうか・・・。」

そして、その言葉を言ってすぐ、ティニーは倒れた。

「!! ティニー!」
「いや、大丈夫。気絶しているだけだ。」
「張り詰めていたものが一気に切れたんだろうね。ゆっくり休ませてあげよう。」
「それに・・・イシュタルのことは、これ以上聞かない方がいいだろうね。」
「・・・ああ、そうだな。」

こうして、『聖戦』は一つの終結を迎える。

暗黒神ロプトウスの化身であるユリウスは実の妹ユリアにその身を浄化され、
死の女神と恐れられたイシュタルは、義妹であるティニーに敗れ死亡した。
・・・と、歴史上には記録されることになる。

すべての真相を知るティニーは多くを語ろうとはせず、周囲の人々もまた聞こうとはしなかった。
また、後にイシュタルと出会ったリーフやアルテナもそのことを口外することはなかった。
そして、イシュタルの生存は歴史の闇に葬られることになる。

もっとも、当事者であるイシュタル自身はこのことを知らなかったのだが・・・。



--願い--

「・・・皮肉なものだ。」
「この命はユリウス様とともにあると言い、死ぬときもともにあると誓ったのに・・・」
「現実はユリウス様の願いで生を選ぶことになるとはな。」

「もっとも、いまここに私がいるのはティニーの存在があってこそ、か・・・。」


ユリウスの『死』を認識したあの時、イシュタルは自らも『死』を選ぼうとした。
しかし、他でもないユリウス自身が『生』を願ったため、自ら死ぬことが出来なかったのだ。
だから、イシュタルはティニーを攻撃することで、ティニーに自分を殺して欲しいと願った。
けれど、結局はそれをティニーに悟られてしまう。
イシュタルには今更後に引くことが出来なかった。
ティニーもそれを解っていたのだろう。
だから、ティニーは自分自身に剣を向けたのだ。
イシュタルに生きていて欲しいと願うが故に・・・。

イシュタルは、ユリウスの元に走った時・・・全てを捨てたはずだった。
自分に生きていて欲しいと願う人物がいるなどとは思っていなかった。
けれど、それは大きな間違いだった。
たとえ敵味方に分かれていても、長い年月会っていなかったとしても、
自分に生きていて欲しいと願う者は確かにいたのだ。

「そうだ。ティニーやサラの為に・・・そして何より自分自身の為に、私は死ぬわけにはいかない。」
「そして、あの男の為にもな・・・。」

イシュタルは再び歩き出す。
自分が生きていることを感じ取るために・・・。



<製作後記>この色の文は作者ツッコミです。 今回は外伝です。 「イシュタルが何故生きているのか?」というフォローを本編で入れられなかったので、 急きょ外伝というカタチになりました。(^^; その割には長い・・・。(爆) 実は、『トールハンマー』の詠唱が書きたかった、というのが本音だったりしますが。(ぉ ちなみに、ティニーはこれでしか出てきません。 キャラ的に難しいタイプなので、今後の出演は無いと思います。 ではでは。次は本編で会いましょう。

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