へたれSS_外伝2 へっぽこVSシリーズ 番外編その2 「神官戦士」
剣、それは剛の力。
魔、それは柔の力。
剛と柔が融合する時、新たな力が生まれる。
それは剣であり剣でなく、魔法であって魔法ではないもの。
私はその力に新しい名を与えることにした。

すなわち「魔法剣」と。


理由

あの頃は、いつも泣いていた。

解放軍とリゲル軍の戦いが熾烈を極めていたにも関わらず、私は泣いてばかりいた。
だから、無理を言って最前線での戦いに参加していた。
少なくとも、戦っている間は泣かずに済んだから。
けれど、戦いが終わればやっぱり泣いていたことを覚えている。

正直、自分の弱さが嫌になった。
お兄ちゃんとママが居なくても大丈夫、と言ったのは自分だ。
けれど現実は泣いてばかりの自分しかいない。

だから、私はずっと求めていた。
自分の弱さを克服するための新しい「力」を。


「剣を教えて欲しい?」

突然の申し出にセリカは驚きを隠せなかった。
リゲル軍と戦っていた頃ならともかく、今は既にあの戦乱は終結している。
デューテが剣の腕を磨く必要性などどこにもないのだ。

「理由を、聞かせてもらえるかしら。」
「それは・・・」

既に心を決めたつもりだったが、いざ聞かれると躊躇してしまう。
本当はこれも逃げているだけなのかもしれない。そう思ってしまうのだ。

「さしずめ、気晴らしを兼ねた特訓、というところ?」
「えっ!? どうして・・・」

知っているの、という言葉を出す前にセリカは切り返した。

「あなたを見ていれば普通は解るわ。」
「それに・・・昨日も中庭で泣いていたでしょう?」

全てを解っていると言わんばかりに言葉を紡ぐセリカを見て、デューテは恥ずかしくなった。
この分では、最初から知っていた可能性が濃厚だ。

「ま、確かに今のあなたに気晴らしは必要ね。」
「今は私も暇を持て余している状態だから、ちょうどいい機会だわ。」
「ありがとうございます! セリカさん。」

その日のデューテは、久しぶりの笑顔を見せることに成功したのだった。


柔の剣

セリカとデューテの特訓が始まった。

「悪いけれど、まずは基本の素振りからね。」
「はい、頑張ります!」

魔法に基本魔法や上級魔法の区別があるように、剣技にもまた基本と応用がある。
どんな技でも基本が出来ていなければ応用は出来ない。

「そうじゃないわ、こうよ。」
「こんな感じですか?」
「そうそう、その調子。」

セリカの指導を受けながら熱心に剣を振るデューテ。
そんな時間の中、不意にセリカが切り出した。

「デューテって・・・タフね。」
「えっ、そうですか?」

よく見ればセリカの肩がかすかに上下しているのが解る。
しかし、対照的にデューテは平気な顔だ。

「うーん、確かに普通の人より体力はあると思いますけど・・・。」

実のところ、デューテは解放軍でも折り紙付きの体力の持ち主だった。
最初は『ライナロック』詠唱のために始めた体力作りは、
いつのまにか寂しさを紛らわす日課となり、今ではすっかり日常となっていた。
もちろん、リゲル軍との戦いが終わった今でもそれは変わっていない。

「謙遜しなくてもいいわ。・・・本当は私も体力には自信があるんだけどね。」

セリカの言葉は嘘ではない。
少なくとも、セリカもまた女性としては破格の体力を持っている。

そんな雑談も交えながら、特訓は進んでいく。
そして、瞬く間に三月の時が流れ・・・。


「たあっ!」
「きゃっ!」
「ご、ごめん。大丈夫?」

デューテはこの3ヶ月ですっかり腕を上げていた。
筋が悪くない上に明確な目的があるので上達も早い。
既にセリカと互角以上の打ち合いが出来るようになっていた。

セリカから特訓の終了を告げられたのはそんなある日のことだ。

「えっ、今日で終わり!?」
「うん。デューテには悪いけど。」

既に日常となっていた特訓の最中、何の前触れもなくセリカが切り出した。
デューテにとっては寝耳に水、という他ない。

「勘違いしないでね。別に仕事が忙しいとか、続けていくことに問題がある訳じゃないの。」
「でも、デューテがこれ以上私と特訓を続けても強くはなれない。」
「どういうこと?」
「簡単よ。デューテは私が知っている剣技を全てマスターした。これ以上教えることは何もないの。」
「・・・。」

「ねえ、デューテが目標にしているのは、サイゾーさんなのよね?」
「うん。」

誰に言った訳でもなかったが、それは皆が知っていることだ。

「じゃあ、私には無理ね。根本的にレベルが違うわ。」
「そっか・・・。やっぱり、そうだよね。」
「アルムなら良い勝負ができる思うけど、今はちょっと忙しいから・・・。」
「うーん。」

実際のところ、サイゾーと互角に打ち合える腕の持ち主は少ない。
バレンシア戦記の頃にはディーンやセーバー、ジェシーといった凄腕の剣士がいたのだが、
現在は行方不明だったり各地を放浪中だったりで会うことも難しくなっている。
現実としてアルム以外には相手が居ないというのが現状だった。

ところが、不意にセリカが閃いた。

「あっ、そうか! 別に1人じゃなくてもいいんだわ。」
「?」
「うふふ。我ながらナイスな考え。」
「1人は確定として・・・もう1人を誰にするかが問題ね。」
「あの・・・セリカ?」
「安心して。明日からはもっとハイレベルな特訓が出来るわよ。」

セリカは自分のアイデアに没頭しているのか、デューテの声も何処吹く風だ。

(まあいいや。明日になれば解るだろうし。)

よく見れば、既に日も隠れ始めていた。


話題緩急(ちょっとひといき)

「へ? 今、なんて言った。」
「だから、明日からデューテの特訓に付き合うのよ。」
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺の意見はどうなるんだ。それに仕事だって・・・。」
「あ、仕事なら大丈夫。セリカ様と私で話をつけたから。」
「おいおい、そんな勝手な。」
「何? 文句あるの!?」
「・・・ないです。」
「よろしい。」

「とほほ・・・やっぱりこうなるのね。」


親友

翌日デューテがいつもの場所に行ってみると、2つの懐かしい顔があった。

「あれ? ・・・グレイとシルク!」
「よう、久しぶりだな。」
「お久しぶり。元気だった?」
「元気と言えば元気かな。そっちは?」
「べつに。なーんにも変わり無いわよ。」
「そうそう。今でも下手な事を言うと・・・。」

「イーさん直伝ッ!」

すかさずシルクの鉄拳がグレイに飛ぶ。

「・・・とこうなる訳だ。」
「た、大変そうですね。」

実はこの2人、リゲル軍との戦いが終結した後、めでたく?挙式したのだが・・・。

(結婚すれば2人の関係も変わると思ったのは甘かったのかなぁ?)

人間、そう簡単には変われないようである。


「じゃあ、そろそろ始めよっか。」
「あ、ちょっと待って。もう1人呼んであるから。」
「えっ?」

特訓の相手が1人でないことは昨日の言葉から解っていたが、てっきりこの2人だと思っていた。
シルクはシスターだが、魔戦士の影を召喚できることで有名だ。

「だって、シルクさんに魔戦士を召喚してもらうんじゃ?」
「いきなりそれは敷居が高いから。もう1人助っ人を頼んであるの。」

そう言った時、不意に周囲が暗くなった。
自分達の周りだけに影がさしたのだ。

「あ、噂をすればなんとやらね。」

それは1匹のペガサスだった。
そのペガサスはゆっくりとデューテたちの前に降りてきた。

「あーっ! クレアじゃない!」
「ご名答。みんな、元気だった?」
「いつ戻ってきたの?」

クレアはバレンシア戦記の後、武者修業をすると言い残してバレンシアを去った。
周囲の人間には突然の行動だったが、デューテはその行動の意味を知っている。
そう、彼女はアルムへの想いを断ち切るためにバレンシアを後にしたのだ。

「半月ぐらい前よ。アルム様とセリカ様には挨拶したんだけど、聞いてない?」

デューテはちらりとセリカを見た。
いかにも忘れていましたという顔をしているが、本当のところは謎だ。
最近ようやく解ってきたが、セリカはあれでなかなか食わせ者なのである。

「聞いてたらこんなに驚かないって。」
「そりゃそうか。それで、私もデューテの特訓に付き合うことになったからよろしくね。」
「うん、お互い頑張ろうね!」

親友との思いがけない再会は、デューテの気合を引き出す好結果になったようだ。


剛の剣

いよいよ第2の特訓が始まった。

「じゃあ、最初はグレイと打ってもらおうかな。」
「オッケー。」
「了解。」

お互いに剣を構える。

「へえー。とても剣を持って3ヶ月とは思えないね。」
「ありがとう。」

そのまま打ち合いに入ろうとしたが、いきなりセリカが止めた。

「あ、ちょっと待った。」

出会い頭を止められたので、二人ともつんのめりそうになる。

「デューテ、グレイの剣を正面から受けてみて。」
「ただし、受け流したりするのは抜きで。」
「ええっ!?」
「ちょっと待てよ。そりゃさすがにキツいだろ。」
「いいのよ。たぶん、実際に受けてみた方が解りやすいから。」
「・・・何か考えがあるみたいだな。わかったよ。」
「もちろん、手加減は無しで。」
「わかってるさ。」
「デューテは?」
「・・・了承。」


「きゃあっ!」

考える間も無く、自分の体が吹き飛ばされているのが解った。
圧倒的な破壊力とはまさにこういうことを言うのだろう。

(手が・・・手が動かない)

肩よりも先の感覚が完全に麻痺していた。
剣をまだ持っているのかすら解らない。もっとも、既に飛ばされた可能性が濃厚だが。

「大丈夫か?」

気がつけば、グレイがすぐ側に立っていた。
他の面々もすでに自分の側に集まっている。

「う、うん。なんとか・・・。」

自分で立とうとして、それが出来ないことを悟る。
腕に力が入らないので、逆に倒れこんでしまったのだ。

「無理しちゃダメ。手の麻痺はすぐには消えないわ。」

セリカが静かにたしなめる。
この様子からすると、自分の状況をほぼ把握しているらしい。

「・・・デューテ、これが『剛の剣』よ。身に染みたでしょ?」
「『剛の剣』?」
「そう。剣質についての話、覚えてるわよね。」

(ああ。そう言えば・・・)

一度だけ、セリカと話をしたことがあった。
曰く、自分の剣質は『柔の剣』・・・つまり受け流しの剣だと言っていた。
だから、本当の意味で剣を覚えたいのなら自分ではダメだと、そんな感じの内容だったはずだ。

確かに、実際に受けてみるとその違いがよく解る。
相手の力を利用するのではなく、相手の力をものともせずにねじ伏せる剣。それが『剛の剣』という訳だ。

(私に・・・出来るのかな?)

グレイのパワーを実際に感じてみて、弱気になる。
果たして自分にあれほどの破壊力を出せるのかと、思考がマイナスに走りそうだった。
そして、そんな自分に手を差し伸べてくれたのは、剣とは本来無縁のシルクだった。

「こらこら。悪い方向に考えちゃダメよ。」
「でも・・・。」
「なにもグレイと同じ事をする必要は無いの。自分のやり方を見つければ良い訳だから。」
「自分のやり方・・・かぁ。」
「そう。別に期限がある訳でもないし、ゆっくり考えてみて。」

シルクの言葉は、わずかではあるが自分にとっての光明になった。
後で思えば、この言葉こそが始まりだったのかもしれない。
もちろん、この時の自分はそんなことを知らないのだけれど・・・。


「じゃあ、次いってみよう。」

その後しばらく休んだら手の痺れも収まったので、次の特訓となった。
今度の相手はクレアだ。

「手加減はしないからね。」
「もちろん。望むところよ。」

思えば、剣を交えるのはこれが初めてだった。
もとが魔道士とペガサスナイトなので、当然と言えば当然なのだが。

「じゃあ、始めて。」

セリカの合図でお互いに剣を構える。
しかし、その後の展開は明らかに一方的なものだった。

(う、嘘っ!? なんて速さ!)

クレアの繰り出す剣のスピードに全くついていけなかった。
元々がスピード派とは知っていたけれど、これは流石に予想の範疇を越えている。
結局、成す術も無く倒されてしまった。勝負あり、だ。

「いててて・・・。」
「大丈夫だった?」
「うん、今度は特に。でも、クレアってこんなに強かったのね。」
「ふふ。力じゃ男に敵わないからって、速さを重点的に特訓した成果よ。」
「というわけで、これも一つのやり方ね。ま、あなたは自分のやり方を見つけた方がいいと思うわ。」
「・・・うん! 私も頑張るね。」

(そうよね。力が『剛の剣』の全てじゃ無い。私には、私なりの方法があるはず。)

クレアの見せた剣技はあくまでクレアにとっての『剛の剣』だったが、
少なくとも『剛の剣=力』という図式を払拭するには充分な効果があった。


そして、この日を境にデューテは特訓の一時停止を決めた。
自分自身の『剛の剣』を見つけ出すことが、今の自分に一番必要だと思ったから。


風の刃

「・・・何か、ないかなぁ。」

既に特訓の一時停止から1週間が経とうとしていた。
が、デューテは未だに自分なりの答を見つけられずにいる。
ついつぶやきを漏らしたとしても仕方のないことと言えよう。

(でも、速さで対抗っていうのは、向いてないと思うのよね・・・)

デューテは元々が魔道士なので、速さを必要とする動作は得意ではなかった。
第一、クレアの驚異的な速さは一朝一夕で身につくようなレベルではない。

「あー、ダメダメ! 悪い方向に考えても答は出ないわ。」
「・・・気晴らしに散歩でも行こうっと。」


デューテが城を探索していると、ふと気になる光景に出くわした。

1人の男性が木の下で居合の構えを取っている。
しかも不思議なことに、その男性は剣を持っていない。
つまり、丸腰で居合の構えを取っているのだ。

(誰だろ?)

ソフィア城は一般開放しているので、デューテの知らない人物がいても不思議ではない。
しかし、デューテはその男性に対して不思議なものを感じた。
言葉で表すのは難しい。いわば直感というものだ。

そして、直後にデューテは思いがけない光景を目にすることになる。

(え、ええっ!?)

男性の前に1枚の葉が舞い降りたかと思うと、それが瞬時に二分されたのだ。
いや、それ自体は別にどうということはない。
問題は、その葉を二分した「モノ」だった。

一瞬ではあったが、デューテははっきりと見た。男性の右手から伸びた風の刃を。
そして同時に、その刃が魔力によるものであることも理解した。

「やはり、媒体がなければ無理か・・・。」

その男性は意味ありげな台詞をつぶやく。
だが、すでにその声はデューテには届かない。

(見つけた・・・私の『剛の剣』を)


果たしてこの男性が何者なのか。何故こんな場所に居たのか。
それは、また別の物語である・・・。


特訓再び

この日から、デューテは特訓を始めた。
特訓といってもセリカたちとのそれではない。
それは、自分自身の『剛の剣』を完成させるための特訓だ。

デューテが見出した答とは、魔力による剣を作ることだった。
剣を媒体として魔力を封じ込め、剣が相手に触れた時にその魔力を一気に放出する。
理論上は、相手に直接魔力を放出することで魔法障壁を無力化できる。
つまり、普通に魔法を使うよりもはるかに高い破壊力を生み出せることになる訳だ。

が、実践となると理論ほど甘くはない。

「ああ、もう! もっと魔法に強い剣はないの!?」

最初に相性の良さそうな雷の魔法で試してみたが、自分が感電するハメになったので却下した。
次に聖の魔法をやってみたが、どうやら根本的に物質との相性が悪いらしく、魔力を固定することすら出来なかった。
一番無難と思われる風の魔法は残念ながら使えない。

ということで炎の魔法を使うことになった。
もともと一番得意な系統なので、魔力を固定するのは簡単だった。
が、固定してからが問題だった。
魔力による炎はかなりの高温を発するので、媒体となる剣がすぐに変形してしまうのだ。
いろいろと材質を変えてみたが、手頃な剣はどれも金属製なので熱に弱い。つまり失敗である。

「はあ・・・熱に強い剣ってないのかなぁ?」

閃いた時には最高潮だった気分も、いつのまにか沈んでいた。


「・・・気晴らしに魔法の乱れ撃ちでもやってやろうかな。」

なにやら物騒な言動と共に、デューテは王宮を徘徊していた。
特訓が上手くいかず、気分転換を兼ねての探索というところか。

王宮を探索しているうちに、一つの部屋に辿り着いた。

(宝物庫か・・・。何か使えるものがあるかな?)

バタン

「うわっ! 凄いホコリ。・・・もう、たまには掃除してよね。」

どうやら最近は入った人間がいないらしく、扉を閉めたとたんに大量の埃が宙を舞う。
しかし、この出来事こそがデューテに光明をもたらす結果となった。

「あれ・・・? 風でも吹いてるのかな?」

舞いあがった埃が部屋の片隅に集中して飛んでいくのが判った。
落ちついて状況を確認してみる。

「・・・ううん、風は吹いてない。」

ならば結論は一つしかない。

「つまり、埃の集まる場所に何かがあるんだよね・・・。」

デューテは恐る恐る問題の場所に近づいてみた。
そして、その場所にあったものとは・・・。


雷の剣 炎の剣

「なーんだ。ただの古ぼけた剣か。」

埃の中心には1本の剣があった。
部屋中の埃をかぶっていることもあり、よりいっそう古ぼけて見える。

「・・・さすがにコレは無理かなぁ。」

ひょっとしたら魔法剣に使えるかも、という甘い考えがよぎった。
が、この剣ではいくら何でも頼りなさ過ぎる。

「あれっ!? 何か文字が掘ってある。」

刃の部分に何かの文字を確認することができた。

「えーと・・・いかずちよ、われにつどいてひとすじのひかりとならん?」

雷よ 我に集いて一筋の閃光とならん

バリィーーーン

「きゃあぁーーーっ!」

突然、剣が轟音と共に閃光を発した。
耳が割れんばかりの音だ。おそらく王宮中に響き渡ったことだろう。

「何事だっ!?」
「宝物庫の方から聞こえたぞ!」

案の定、警備の兵が宝物庫に集まりだした。

(ど、どうしよう・・・)

先程の閃光で宝物庫の一部が焼け焦げている。
そして、この状況ではどう見ても自分が犯人である。・・・事実そうなのだか。

そんなことを考えているうちに、警備兵が突入してきた。

「デューテ様!?」
「これはどういうことです?」
「えっと・・・私にもよくわからないんだけど・・・。」

実際、何故こうなったのかよく解っていないのだから、説明の仕様がない。
どう言えばいいものかと思案していると、思わぬ助け舟が現れた。

「ねえ、凄い音がしたけど、何の騒ぎ?」
「あっ、アルムさん。」
「こ、これはアルム王。」

時の最高権力者、アルムのお出ましである。
どうやらちょうど宝物庫の近くに居たらしい。

アルムはざっと周囲を見渡した後、軽く笑った。

「なるほど。大体の事情は読めたよ。」
「・・・そうだね。悪いけど、僕とデューテ以外は席を外してくれるかな?」
「えっ!? しかし・・・。」
「いいから。」
「はぁ、わかりました。」

警備兵たちはしぶしぶながら退室した。
おそらくは扉の前で聞き耳を立てることになるだろうが、それは別に構わない。

「で、その剣を使った感想は?」
「その前に、この剣が何なのか教えてほしいんだんけど・・・。」
「あ、そっか。悪い悪い。」
「この剣は『雷の剣』。使い手の魔力を雷に換えて打ち出す魔法剣さ。」
「魔法・・・剣?」

魔法剣という単語に敏感な反応を示すデューテ。
アルムも事情は知っているらしく、軽く笑って答えた。

「ああ、デューテは魔法剣の特訓中なんだっけ。セリカに聞いたよ。」
「でも、デューテの魔法剣とその剣だと意味が違うんだ。」
「どういうこと?」
「『雷の剣』の場合は剣自体が魔力を持っていて、それを引き出すんだけど・・・」
「ふんふん。」
「デューテが特訓中の魔法剣は、使い手自身の魔力を剣にする訳だから、本質が違うことになるんだね。」
「受動と能動ってことかな?」
「そうそう。そんな感じ。」

そんな会話の中、ふとデューテの頭に疑問がよぎった。

「でも、こんな危険な剣をどう使うわけ?」

さっきの雷では宝物庫の4分の1近くが被害を受けた。
もし実戦で使った場合、味方を巻き込む危険が大きすぎるように思う。
第一、剣を使うたびにあんな轟音を轟かせていてはたまらない。

ところが、真剣に聞いたデューテをよそに、アルムは声を上げて笑い出した。

「あははは。そりゃ、デューテが使ったらそうかもね。」
「でも、普通は剣士が使うものだから。まぁ、せいぜい『サンダー』くらいの威力がいいところだよ。」

なるほど。デューテのような魔道士にはかえって使えない武器という訳だ。

「じゃあ、デューテには使えないね。・・・残念。」
「いや、そんなことないと思うよ。むしろ、必要なんじゃないかな。」
「えっ!?」
「だって、デューテは魔法剣に使えそうな剣を探しにここへ来たんだろ?」
「・・・。」

そう言えばそうだった。
さっきの爆音ですっかり失念していた。

「本当は、ここに来る前にデューテの部屋に寄ってみたんだ。」
「まあ、デューテは居なかった訳だけど、かわりに溶けた剣が部屋中に散乱してた。」
「それで、宝物庫あたりに居るかなと思って来たというのが本当のところだね。」

つまり、アルムが宝物庫に現れたのは偶然ではなかったということか。

「その『雷の剣』だったらデューテの炎にも耐えられると思うよ。ちょっと試してみたら?」
「ここで?」
「あー、何かあったら僕が責任取るから大丈夫。」

とてもバレンシア大陸の王とは思えない言動である。
が、特に文句をつける必要も無いのであえてその言葉に甘えることにした。

(今度こそ、上手くいくといいけど・・・)

実のところ、この剣が溶けてしまったらけっこう大事ではないかと思うのだが、敢えて考えないことにした。

「炎よ!」

炎の魔法を唱え、その魔力を手にした剣に固定する。
自分でも驚くほどあっさりと固定された。どうやら剣自体が魔力を干渉しやすいらしい。

「へえー、凄いや。本当に炎が剣を形成してるみたい。」

初めて実物をみたアルムが感嘆を漏らす。

(問題はここからね)

これまでの剣は、10秒程度であっさりと溶けてしまった。
一番長いもので20秒もっていない。
いくらこの剣が魔法に強くても、30秒ぐらいが関の山ではないだろうか。そんな思いがよぎる。

しかし、デューテの予想は見事に覆された。

「・・・凄い。全然溶けてない。」
「どうやら、この剣なら大丈夫そうだね。持って行きなよ。」
「でも、これってけっこう貴重品なんでしょ? ホントに貰っていいの?」
「気にしなくていいさ。その剣にとっても、倉庫で眠っているよりはいいだろうし。」
「うん、わかった! ありがとう、アルムさん。」

話がまとまったところで、アルムがふとつぶやいた。

「・・・しかし、何と言うか、きれいになったねぇ。」
「て言うか、同じ剣とは思えないよね。」

デューテが魔力を固定した時間は約1分。
魔力を開放した時に二人が見たものは、青い光沢を放つ見事な剣だった。
おそらくこれが『雷の剣』の本当の姿なのだろうが・・・。

「それにしても、ギャップあり過ぎ・・・。」
「まぁ、炎の熱で周りの錆びだけが溶けちゃったんだと思うけどね。」

逆にいえば、錆びが溶けるほどの高温でありながら、剣自体には一切の損傷が無いということだ。
これならよほど無茶をしない限りは大丈夫だろう。

(・・・ライナロックはさすがに無理だと思うけど)

そもそもあの究極魔法を魔法剣に使うという発想が無謀なのかもしれない。
しかし、デューテはそれを目標にしようと思っていた。
目標は大きすぎるくらいで丁度いい。たとえ達成できなくても、その努力が無駄になることは決して無いだろうから。


「僕が手伝えるのはここまでかな。あとは、デューテ自身が頑張ることだね。」
「うんっ! ありがとう。」

元気いっぱいの声が城の一角に響いた。


魔法剣

宝物庫の出来事から数日の後・・・。
その日、城の中庭で久しぶりに5人が顔を揃えていた。

「ここに全員を揃えたということは、完成したのね?」
「もっちろん! さぁて、どっちから行く?」
「もちろん俺が先だ。クレア、構わないな。」
「ええ、どうぞ。」

デューテとグレイが前に出た。
お互いに懐から剣を抜く。
だが、デューテは何を思ったのか2本目の剣を取り出した。

「グレイ、この剣を使って。」
「おいおい。何でわざわざ剣を替える必要があるんだ。」
「言う通りにした方がいいよ。・・・後悔したくなければ。」
「何か意味ありげだな・・・。ま、いいか。」

グレイは自分の愛剣をシルクに手渡し、デューテの剣を受け取る。

「準備オッケー?」
「OK!」
「もちろん!」
「じゃあ、始めましょうか。」

セリカの声で、戦闘開始となった。

「特訓の成果、見せてもらうぜ!」
「ふふ、見ててよー。」

デューテは剣を構え、一気に詠唱を唱える。

「炎よ、我が手に集いて刃を成せ!」

デューテの手を基点に炎が広がり、一瞬で剣が炎で包まれる。
まさに『炎の剣』という呼び方がピタリと合う状態だ。

初めて見たグレイが一瞬ひるむ。
が、そこは歴戦の剣士。迷わずに剣を振り下ろす。

しかし次の瞬間、デューテ以外の誰もが驚く光景が広がった。

「な!? 嘘だろ、おい・・・。」
「ちょっと・・・そんなのアリ?」

グレイの振り下ろした剣は、もはや剣としての役目を果たせない。
なぜなら、刃の上半分が原型を留めていなかったから。
そう。デューテの剣と接触した瞬間、熱で溶解してしまったのだ。

「どう? これならグレイの剣を受け止められるよ。」

誤解の無いように言っておくが、グレイは剣を振り下ろす時に手加減をしていない。
もっとも、この状態を「受け止めた」というかは少々疑問ではあるのだが。

「なるほど。物理的なパワーを魔力の炎で封じ込めた訳だ。」
「これがデューテの『剛の剣』なのね。」

魔力による炎で相手の力を包みこんで攻撃を封じる。
逆に、自分が攻める場合は相手の武器をいとも簡単に粉砕する。
その剣は『柔の剣』であり、同時に『剛の剣』でもある。


後に『魔法剣』と呼ばれることになる剣は、こうして完成した。
それは、1人の少女が自分の弱さを克服するために生み出したのだ。
しかし、彼女の類稀なる資質がなければ生まれなかったのもまた事実。
なぜなら、後の歴史を紐解いても彼女を超える使い手は未だ現れていないのだから・・・。


それから・・・

キィーン

今日もソフィア城の一角で剣の音が響き渡る。

「デューテ! 後ろが空いてるわよ。」
「前だけ見てたらダメだ!」
「ほら、今度は右!」

デューテと打ち合うのは、意志を持たない影・・・シルクの召喚した魔戦士だ。
その幻影は3体。並の腕なら即あの世行きのレベルである。

しかしデューテも負けてはいない。
3方向からの素早い攻撃をかいくぐり、わずかな隙を突いて1体目に致命傷を与える。
1体減ればあとは楽なものだ。
数が少ない分隙も多い。あっさりと残りの2体にも致命傷を与える。
魔戦士の幻影たちは声もなくその場に霧散した。

戦いが終わると、周囲から拍手が起こった。

「お見事。そろそろ4体目に挑戦できそうね。」
「もう『魔法剣』を使わなくても立派な剣士としてやっていけるわ。」
「そんな。まだまだ精進が必要だってば。」

デューテは謙遜するが、実際には大陸でも有数の剣士としてやっていけるレベルだ。
ちなみに例の『魔法剣』を使った時には、5体の幻影を秒殺という脅威の記録も叩き出した。

「ふぅ・・・ちょっと水を飲んでくるね。」

デューテが早足で走り去る。

「まったく・・・どんどん強くなっちまって。もう俺よりも強いんだよな。」
「そうね、強くなったわ。それに、精神的なものも安定してきたみたい。」
「確かに。以前はがむしゃらって感じっだけど、今は単純に楽しいから続けてるって感じ。」
「このままの状態が続くといいな。」

「さて、それは無理じゃないかしら。」
「えっ!?」

何気なく言った言葉に思わぬ返し方をされて戸惑うグレイ。
しかし、その答えは簡単に見つかった。

「・・・ああ。もうすぐ「あいつ」が帰ってくるんだったな。」
「また、騒がしくなるかもね。」
「案外落ちついてたりして。」
「でも、騒いでる方がやっぱりデューテらしいわ。」
「違いない。」

お互いに笑い合う4人。
そう。約束の3年はもう目の前に来ていた。

そして、デューテがまた早足で戻ってくる。

「あれ、みんな楽しそうだね。何かいいことあった?」
「あったというより、これからあるんだな。」
「???」
「そんなに気にする事じゃないわ。さ、特訓を再開しましょ。」
「うんっ!」

今日も元気な声が城の一角で響き渡る。



<製作後記> ※このコメントは2002年9月2日に書いたものです。  時事ネタがあるので一応・・・。 外伝のメンバーは久しぶりだったので、楽しく書けました。(^^) 1人関係ない(つーか謎の)キャラもいますが。(笑) この謎キャラ、実は○○○○なんですよね。(ってこれじゃ解らんだろう・・・) コイツで別の外伝を書くかもなので秘密です。 しかし長くなったなぁ・・・。 アルムとかクレアのように予定にないキャラが出た所為かもしれません。 最初は『雷の剣』を使う予定も全然なかったし。 ま、予定は未定ということで。(ぉ あと『柔の剣』と『剛の剣』について。 ・・・あまりコメントするとボロが出るので辞めときます。(爆) 要はその程度の知識で書いてる訳ですね。 少林サッカーの影響は・・・ちょっとあるカモネ。(謎) ちなみに、今回は「破妖の剣」シリーズ(集英社コバルト文庫 前田珠子著)の影響を強く受けたと思います。 ようやく最終章が始まりましたからねぇ。(嬉) でも、デューテの性格がラスになったとか、グレイがザハト君と化してる訳じゃないですよ。(それはそれで怖い) 最後の3行は解る人だけわかってください。 ではでは。次は本編か外伝か・・・。

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